頭痛がやっと治ったと同時に涙が止まった。
恐怖を流し出したのか、なんだかすっきりした。
ならば俺はどうすればいい。
何をすればここから出られるのか。
そしてクリウスの主人である王とは誰なのか。
考えても、突然誘拐されたし情報が少なすぎる。
その上今現在、俺の命の保証すら危うい。
現状を整理すればする程自分の状況が危ういものとわかってしまい、先が黒くて見えやしない。
ふいに、静かなノックの音した。
クリウスが来て、退出してからそんなに時間はたっていない。
もしかしたらまだ何か用があったのか、それともまた別の人が来たのか。
何も返事をしなかったのに、扉は勝手に開いた。
そうして、見えた人は。
「え、黒羽さん・・・!?」
真っ黒なシルエット。
見覚えのある仮面を身につけている。
まさか、こんな早くに助けが来るとは。
期待に手を伸ばすと、そっと握り返されて、安堵に息を吐く。
「紅は?」
心配してくれたかな。
なんて、好きじゃないとかいいまくってたくせに相手からの好意は求めてる。
ああ、今弱ってるな自分。
そんな自分を少し笑って、連れ出してくれるだろうと黒羽さんを見る。
すると、何故か黒羽さんは大切なはずの仮面を脱ぎ捨てた。
「え、仮面・・・」
現れた素顔。
今まで見たことがない。
当たり前だけど、今目の前にいる人が本物の黒羽さんだと示す証拠は、ない。
思わず顔を強張らす。
そんな俺に、黒羽さんは、彼は、
「俺が、黒羽だと思うか?」
そう、問いかけた。
そんなこと言われたら、もう。
違うとしか思えないじゃないか。
もしも本物ならばまずこんなことしないだろう。
でも、何で判断すればいいのかわからない。
「思わない」
結局、彼が黒羽さんだと確固たる証拠などなくて、そう答えた。
その答えに対し、目の前の人はにたりと笑う。
「正解だ。残念だったな?我が花嫁」
「っ、お前が・・・?」
ホンモノの王と言ってる相手。
紅の敵。
俺を、殺す人?
「安心しろ、殺すなんて無粋なことはしないだろう」
「信じれるとでも?」
「ならば俺の部屋で共に生活するか」
「いいっ、ここで」
そんな、常に一緒にいるようなこと嫌だ。
何をされるのかもわからない。
俺の慌てた返事に、ただ彼は笑う。
「ぁ、その、服は?」
「中々黒羽は有能だったらしくてな、すぐに屋敷を突き止められた」
「それで・・・?」
その服は、どこで手に入れたのか。
「屋敷内に入ったのを一人、な」
聞きたく、なかった。
彼は殺したのか、それともしも怪我を負わせただけで逃したのか言わない。
だけど、俺のせいで、黒羽さんが。
花嫁って王と結ばれると世界が幸で満たされるのではないのか。
なにがどうなってるのか、頭が追いつかない。
どうしてとか、なんでとか、もう、それすらも思いつかなかった。