20

前に見た景色と同じ。
紅と、その背後に見える綺麗な天井。
少し離れた場所に最早シャンデリアとでも言っていい様なものが釣り下がっている。

一回目を閉じて深呼吸。
大丈夫だ。

「・・・いいよ」

筋肉痛が治ったことを告げた直後に押し倒されるとゆう体勢になったのだが、そのまま暫く固まっていた紅にそっと告げる。
俺は、この先もこの人と生きていかなきゃいけないのだから。
まだこんな風に意地を張っているのかと言われても、やっぱり俺は無力な人間だ。
自分を守る力があるだけで、実際に力も発揮できない。

何時の間にか強張った頬から耳までなぞる様に指先を動かす紅。
怖く、ない。

ふっと力が抜けた瞬間に熱い唇が重ねられる。
冷たいものを食べた後だからか、他人の体温が妙に熱くて仕方ない。
紅も食べてたから冷えてる筈なのに、なんでこんなに熱くて堪らないんだろう。

口内に侵入してくる舌を拒まずに受け入れていると、頭がぼーっとしてくる。
このまま何も考え無くなればいいかもしれない、なんて思ってしまうのは心が折れかけているのか。

シアやカイン先輩、そして紅とも話をした。
知らないこと、いくら話をしても受け入れることも理解することも出来なかったことも沢山ある。
だけど少なくとも俺は自分を取り戻していたし、諦めからとは言え今の状況を改善させる方法を模索していた筈なのに。

どうしてこうなった。
それを考えようとしても深くまで重なる唇が思考を遮る。

「んっ、ぅ」

「こっちを見ろ」

離された唇と共に顔を隠す。
熱い、熱くてこのまま燃えて消えてしまいそうだ。

なのに紅を見ろという。
紅を見るには顔を晒さなければいけない。

そこで少しだけ湧き上がった興味から顔を覆っていた手を放す。

「・・・・ぁ、紅」

「どうした?」

「なんでも、ない」

一瞬だけ見えた恐ろしい瞳。
それは情欲に塗れたものだったらまだこの場の雰囲気に合うのかもしれない。
だけど紅は、悲しくなるほど真っ直ぐな殺意をその目に宿していた。

俺が諦めを持ってても普通に紅と仲良くしているように。
紅だってもしかしたら王様になんてなりたくなくて、己が王である象徴のような花嫁が憎くて憎くて堪らないのかもしれない。
それでも紅も憎しみを持っていても仲良くしようとしているのか。

普通の人間や吸血種で友達として出会っていたら純粋に仲良くなれたと思う。
だから話してみれば案外すぐに紅と気さくに話せたし紅の前で心から笑うことも出来る。
そのくせして少し引っかかるのはやはり俺らが運命だと言われて、強制的に引き合わされているからであろう。

もしもの話なんて、時間の無駄だし考えても意味のないことだと思う。
それは今でも変わらないけど、それでももしもの世界が欲しいのだ。

こんなことなら花嫁と吸血種の王は自然と惹かれ合うような何かがあればいいのに。
吸血衝動を誘い力を与える血を持っているだけで、俺には紅自身が惹かれるものなど何も持っていない。
逆に俺もあくまでも友情としての好きで紅に惹かれているわけではない。
それならばこんなに悩むことも無いのだし。

「ねぇ、紅は俺のこと好き?」

「・・・さぁ、な」

「・・・だろうね」

やはり紅は俺の事を恋愛のような意味では好いていない。

どちらもそのような意味では好きあってないくせに、結ばれ、一生を共にする。
最初花嫁は王様の生贄だと思ったことがあった。
だけど違う、花嫁と王はどちらともこの世界のよくわからない力の生贄だ。

運命共同体。
この言葉がなんて合うんだろうか。

熱い掌が衣服の内部に侵入し素肌をなぞる。
動き回るそれが擽ったくて身を捩り、二人して顔を見合わせ笑う。

覚悟は出来た。
あの殺意の籠る瞳を見て。
もう俺らは一生離れられないのだから。

これはもうあんな生半可な覚悟じゃない。
こんなにも自分の意志が固いのも珍しいかもしれない。
俺は受け入れるよ、この運命を。

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