メイドさんにお願いをした次の日。
コックさんが来てくれて、俺の料理の先生をしてくれることになった。
あまりにも速い対応にびっくりしたけど、やっぱり言ってみるもんだなぁって思った。
メイドさんが言っていた通りに例の当主様の妹君が使っていた場所はとても綺麗だ。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「早速ですが本日はどうしますか?材料は厨房の方に取りに行けば何でもありますよ」
「デザート作りたいんですけど、あんま作ったこと無くて・・・」
そう言えば少し考え込む先生。
初心者なので簡単なのがいいと伝えると、それも考慮して幾つか提案してくれた。
「プリンなどオーブンを使わないものも楽ですけど、スフレなんかもどうですか?」
「じゃあ、スフレ作りたいです」
「わかりました。レモンなど果物やチョコレートも入れます?」
「んー、いや、今日は何も入れないで作ってみます」
そんな俺に頷くと、材料をメイドさんに頼み持ってきてもらう。
暫くして揃った材料の説明を受け、その後計量に入る。
どんなのが出来るか楽しみだが、想像以上の砂糖の量にびっくりした。
昼間はお菓子作りを楽しみ、時刻は夜へ。
作り終わったころには既に夕方になっており、俺の我儘に付き合ってくれた料理の先生は夕餉の準備をしに慌てて向かった。
お菓子作りの本も数冊紹介してもらい、メイドさんが持ってきてくれたので明日はそれを見ながら作ってみようか。
知らないうちに笑みを作っていたらしい俺は、先に席についていた紅に不振がられた。
どうやら笑みとゆうより若干にやけていたらしい。
改めて考えてみると、久しぶりに台所に立ったのが嬉しかったのかもしれない。
やはり最初が必要に駆られてだったとしても、結構長く台所に立ってきたし、もしかしたらこんなに台所から離れているのは初めてかもしれない。
人に自分のものを食べさせるのが好きだし、作ったものを美味しいと言われると嬉しい。
正樹たちが笑顔で美味しいと言ってくれるから俺は料理が好きなんだろうなぁ。
ああ、そういえば正樹たちは元気だろうか。
料理のことを考えると自然と同時に思い浮かぶ正樹たち。
冬休みが明けたら、久しぶりに手の込んだお弁当を作ろう。
やはり毎日のことだったので、ある程度の味と素早く作れるかを重視していたけど、たまにはいいだろう。
だとしたら元々大雑把であまり器用ともいえない腕だ。
腕が落ちないように練習しなければいけないなぁ。
「どうしたんだ、その本」
「料理の。ここっていっぱい本あるからさぁ」
風呂上がりの紅に聞かれる。
先程紅が風呂に入っている間に持ってきた料理の本だ。
お菓子作りも楽しかったけど、やっぱり普通の料理もしたいからなぁ。
そうして俺も続いて風呂に入る。
風呂から上がったと同時に、昼間に作ったスフレをメイドさんが持ってきてくれた。
冷蔵庫で冷やしておいて、アイスを添えているので風呂上りには気持ちいい。
「久しぶりだな、お前の手作り」
「うん。でもお菓子作ったのってあんまないよね?」
「ああ、そういえばそうだな」
今まで作ったものと言えばホットケーキミックスでさっと作ったのぐらいだろうか。
それも夕飯だけじゃ足りないと言った紅に、とりあえず腹に詰めてもらうために。
嫁としてお菓子も作れるって挽回しなきゃなぁ。
「・・・・・そう言えば、筋肉痛はどうだ?」
食べ終わってダラダラ雑談をしていたら、ふいに問われる。
ここで俺は、どう返事をすればいい。
まだ治ってないと言ったら、どうなるか。
紅はきっと安静にな、的なことを言って後は何も言わないだろう。
もう既に治った痛み。
なんて言えばいい。
心はやっぱり臆病で、嘘をつけばいいと囁く。
だけど理性はもう諦めろだなんて嘯く。
覚悟を決めるのは、今だ。