シアとゆっくり語らっていると、いつの間にか日が暮れて若狭さんが夕食だと呼びに来た。
俺は一体どれだけのストレスが溜まってるんだと、自分でも驚くほどにに喋り続けていたようで。
「紅、おかえり」
「おかえりなさいませ、紅様」
「ああ。久しぶりだなシア。実家はどうだったか?」
「両親共に元気で、顔を見に行けてよかったです。有難う御座いました」
おお、こうしてみるとやっぱりシアって紅の執事さんなんだよなぁ。
何回かシアと紅のやり取りを見たことはあるけど、シアが執事服着てるのもあって普段の何倍も執事さんに見える。
がんばれよシア、なんて心の中で呟いて席に座る。
食事中は、今日の乗馬の体験を紅に語った。
紅にとっては既に幼いころに教養の一環としてやっていたとしても、俺にとっては初めての体験だったので少し食べるのが遅くなったが話まくってしまった。
紅も笑いながら聞いてくれたのが余計に話を長引かせてしまった原因だ。
シアやカイン先輩と久しぶりに会って、シアに話を聞いてもらったおかげか心に程よい余裕が生まれている。
勿論あのメモの内容とか気になることはまだまだあるけれど、なるようにしかならない。
今までの自分のスタンスを取り戻せているのか、そんな風に考えられるようになった。
夕食後は先に紅に風呂に入ってもらって俺は待ち時間本を読んでいる。
司書さんに教えてもらった本は、花嫁について事細かに書かれてあった。
その中でも気になったのは、やはり力についてだ。
吸血種に無限の力を与えられる魅惑の血、そして己を守る絶対防御。
どうやら非力な俺にも自己を守る力はあるらしくて、それを今読み進めている最中だ。
もし何かあったとしても、身を守る力があるのなら周りに迷惑をかけないで済む。
黒羽さんがちゃんと戦っているところを見たことが無いが、まあ強いだろうと思う。
だけど俺みたいな足手まといがいたらどうなってしまうのかはわからない。
なので純粋に迷惑かけないで済むと喜んだ。
だが、ここで一つ大きなポイントがある。
自分を守る力があるという、存在自体は認知したのだがその方法がわからない。
実際問題俺がその力をきちんと発揮できなければ意味がないのだ。
花嫁だからその力はあるのだろうけど、どうやって使いこなせばいいのだ。
一人悶々と考えていると、いつの間にか紅が風呂からあがっていたので本を読むのを止めて風呂場へ向かう。
そろそろ俺の脳みそでは本の内容を理解するにもキャパオーバーしそうだったのでちょうどよかった。
でもどうしても続きが気になって、いつもより少し早目に入浴を終わらせた。
ベッドへ戻ると紅が書類に目を通していた。
最近は比較的帰る時間は早くなっているものの、忙しいことにかわりはないようだ。
「紅、仕事多そうだね」
「いや、これを終わらせたらあとは自由だ」
「そうなの?じゃあ街とか見に行きたいなぁ」
「ああ。今までずっと家に閉じ込めたままで悪いな」
「仕方ないよ。俺も襲われたくないしさ」
そうこうしている間に、最後の書類をチェックし終えたらしくて手招きされる。
ちなみに俺は椅子に腰かけていた。
漸く仕事も終わったみたいだし今日はもう早く寝たいのかなと推測して、本の続きは気になるものの疲れた旦那様を労わるのも嫁の務めだと、すぐに紅の下へ行く。
「もう寝る?」
「・・・約束、覚えてる?」
あ、と思った時には唇を塞がれていた。
そういえば最近血も飲んでいなかったなぁと、息苦しくぼんやりしてきた頭で思い出す。
「こ、う・・・」
唇が離れた後に、そっと腫れぼったくなった口を動かす。
約束は、覚えている。
元はと言えば俺がけしかけたようなものだし。
だけど、やっぱり、怖い。
「透」
「いい、よ?これでも、紅の嫁になった時点で覚悟はできてるし」
「ああ。・・・そうだな」
震える身体は、押し倒されている状況なので易々とわかるだろう。
そんな俺を、少し戸惑ったような、複雑なような、なんだかわからない顔をしていた。
何か変な事を言っただろうか、それともやはり震える身体に何か思うところでもあったのだろうか?
俺は諦めているわけではない、受け入れてるだけなのだ。
だから紅に言った通りに覚悟は出来ている。
出来ている、筈なのだ。