13

夕食の時間になり、呼びに来てくれた若狭さんに連れられて食堂へ行く。
帰ってきたばかりなのか、スーツ姿の紅もすでにいた。

「・・・お帰り」

「ああ、ただいま」

どうしてもあの手紙のことが記憶の片隅から消えなくて、直視することが出来ない。
少し怪訝そうな顔で見られたものの、すぐに料理が運ばれてきたので特には何も言われずに済んだ。

そうして食事をとっていたとき、ふいに紅の携帯が鳴る。
大事な用だったり秘密なことではないらしく、そのまま少し喋るとこちらに笑いかけてきて、どうしたのだろうと首を傾げる。

「明後日シアとカインがこちらに来るそうだ」

「え、マジで?嬉しい」

「日中は暇な時が多いだろう。シアはもう少し実家にいる予定だったが、早めて貰った」

「いいのかな・・・?うん、でもありがとう」

ちゃんと自分のこと考えてくれてるんだと思うと、純粋に嬉しい。
だけど、どうしても手紙の偽の王という言葉がひっかかる。
宝具に選ばれたと事実があろうとも、今自分の心は随分と弱っているらしくどうしても疑う心が消えてくれない。

「それと、俺もそろそろひと段落しそうだから」

「・・・うん、わかった」

冬休みの始まる前の、約束。
了承した自分。

我慢はさせたくないと、あの時思ったことは事実で。
紅になら、もう仕方ないし抱かれてもいいと思っていたのも事実。
それでもいざその時が近づいてきたらどうしても動揺してしまう心。

更に重なるストレスを、ひっそりと溜息を吐いて見ないふりをした。


そうして喜ばしいことにシアとカイン先輩が来てくれたので俺の日中の相手をしてくれることとなった。
まぁカイン先輩はやはり紅と一緒で忙しいのか早目に帰ってしまうらしいのだが、暫くは近くに滞在するとのことだ。
シアはこの屋敷に執事見習い兼俺の世話係として若狭さんと共についてくれるらしい。
友達を世話係とするのはちょっと嫌だけど、本来シアは紅に仕えてるのでその奥方の俺にもどうのこうのらしい。

「シアー、久しぶり!元気だったか?」

「はい、もちろん。透も元気そうで安心しました」

「ちょっとちょっと、俺もいれてよー」

「カイン先輩は相変わらずですね」

「なにそれっ」

若狭さんやメイドさん達ともだいぶ仲良くなってきたとはいえ、やはり同年代と話すほうが正直楽しい。
それに、仕事だから仲良くしてくれるってどうしても思ってしまうから。

「こっちでの生活はどう?やっぱ退屈?」

「まぁ正直そうですね。することはお茶会か本読むか寝るかしかないんですよ」

「少し運動などもしたらどうですか?」

「そうしたらー?シアいいこと言うね、透バドミントンとかしない?」

「え、あるんですか?」

そんなこと初耳だ。
とゆうかカイン先輩はなぜそんなことを知ってるんだろうか?
そんな疑問が出たが、学園でもカイン先輩と紅が仲よさそうなところは見たことがあるので学園に来るまでは互いの家に行き合うような関係なのだろう。
わざわざ聞くのも、なんか旦那の浮気調査みたいなのでやめておこうと、自分で勝手に出した答えで満足しておく。

「テニスとか、乗馬するとこもあるよ。どうする?」

「馬・・・ちょっと興味あります」

なんつーか、やっぱり金持ちだ。

場所を移動して馬小屋へ向かうと、馬小屋の管理人さんにお願いして乗せてもらうことになった。
初めての経験だし、まず馬をこんな間近で見たことすら初めてだ。

気に入った茶色い毛並みの美しい馬を選ぶ。
危ないのですぐには乗れず、最初にある程度のレクチャーを受けたり、カイン先輩も嗜みがあるので見本を見せてもらい、ようやく馬に跨ることとなった。

「うわ、高い・・・」

「ほら背筋伸ばして、ちゃんと両手で手綱持って」

「はい。・・・大丈夫ですか?」

「そうです、綺麗な姿勢ですよ」

管理人さんの優しいレクチャーと手助けのおかげで難なく乗れることはできたのだが、やはり少し不安定だしでちょっと怖い。
そして馬の隣に管理人さんが手綱を持ってくれているので、とりあえず歩くことになったのだが、予想以上に揺れる。

「っ、わー、なんか、ちょっと怖い」

「大丈夫ですよ。慣れですから、暫く歩いたらすぐに怖くなくなりますよ」

その言葉に、暫くゆっくりと歩くことにする。
俺を挟むようにシアとカイン先輩。
やっぱり、これは守られてるんだよなぁって、些細なことでも感じてしまう。
それでも初めての乗馬で気分が良かったし久しぶりに二人に会えたしで、そんなこともすぐに忘れ、手綱を握りなおした。

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