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自分にとって、寮の部屋は十分に広い。
なのにこの部屋の大きさときたら、軽く寮の部屋の2倍以上はあるのではないか。

流石神咲家とでも言えばいいのだろうか。
俺はとんでもないとこに嫁いでしまったなと、門のとこでも思ったが再び自覚せざるをえないようだ。

「紅」

あんまりにも自分が場違いな存在に思えて、思わず名前を呼んでしまった。
すると紅は俺のこの不安な心境に気付いてくれたようだが、何故か気まずげに目を逸らされてしまった。

「その、夕飯までに戻ってくる」

「・・・何かあるの?」

「近くに元老院の重鎮の一人が居てな、挨拶に」

「俺も行った方がいい?」

「いや、今回は俺一人でいい」

紅は行きたくないなど呟きながらも仕方ないと溜息をつく。
俺は若干同情的な心情でわかったと頷けば頭を撫でられ額にキスされる。
唇にすればいいのに。

紅が出ていき、部屋に一人残される。
仕方ないことだとわかっていても、この落ち着かない心を鎮めて欲しかった。

あまりにも大きなこの屋敷、紅の母親には目障りだと思われ、友達や知り合いが誰もおらず、きっと屋敷からも出して貰えない。
寮の部屋に軟禁されていた時には自分の部屋だったし、実際にはしていないが、頼み込めば正樹達にも会える距離だった。

それがどうだろう、今のこの状況は。
何だかやるせない気持ちになり、キングサイズの大きなベッドに寝転ぶ。

長時間の移動や、精神的なものも合わさり、疲労が身体を蝕む。
自覚すると共に身体が重くなってきて、更に言えば瞼も重くなってきた。
もういいや、なんて投げやりな気持ちになりながら夢の世界へ旅立っていった。


再び目を開いたときには、隣に紅が座り込んでいた。

「・・・こ、ぅ?」

「ああ、今起こそうと思ってたんだ」

「あれ?今何時?」

「19時だな。夕飯はどうする?父さんが一緒にどうか、と言っていた」

疲れているなら運ばせてここで食べてもいいと言われたが、初日だからこそ一緒に食べたほうがいいだろう。
まだ若干身体は怠いが、別に夕飯を食べるぐらいだし、食べたらすぐ寝ればいいだけの話である。

「じゃあ当主様とご一緒させて貰おうかな」

「わかった」

起き上がり欠伸をすると、とりあえず寝癖を直す。
いやね、やっぱり身嗜みぐらいは気にしなきゃ怖いじゃないですか。

そして、ついにと言うか、メイドさんが俺達を呼びに来たので後ろをついていく。
広い廊下の先に、豪華な装飾の施された扉を開くと、これまた豪華な食事の乗っている広いテーブル。

「お待たせしてすいません」

「いや、私もちょうど今席についたところだよ」

先に座っていた当主様に頭を下げてから席に着く。
紅も向かい側に座って、静かに食事が始まったのだが、正直緊張しまくりで気まずい。

「ああそうだ、私の事はお義父さんって言ってくれて構わないからね」

「へ・・・っ、あ、はい」

「ふふ、緊張してるよね?ごめんね」

「いや、そんなことは、ないです」

どうやら当主様、お義父さんは自分の持つオーラなどを自覚しているようだ。
まあこんな世界に名をはせるような名家の当主なんてものについてるんだから、オーラから違うってのも、威圧感があるってのも不思議なものではないと思う。
そりゃ俺が慣れるかどうかは別物だけど。

そして食後のデザートと紅茶が出てきたと同時に、扉が開き人が入ってくる。
驚いている俺に、当主は朗らかに笑いながら説明を始めてくれた。

「滞在中、やっぱりこの家の要職についてる者は紹介していたほうがいいと思ってね」

「はい」

「では最初に家令のクロヴィス。屋敷の事は全て任せているんだ」

「よろしくお願いいたします、透様」

その後も、メイド長のエレナさん、期間限定で俺の従者をしてくれる若狭優(わかさまさる)さん、神咲家お抱え騎士団団長のリーベルさんなど紹介してくれた。
世界は今や人種ではなく吸血種と人間、二つにわかれているので名前がカタカナだろうと漢字だろうと、言葉が通じるので問題は無い。

それよりも俺が辛いのは愛子とはいえ、なんの取り柄も無い人間がこうして様づけされて従者をつけられるという、分不相応な扱いをされているからだ。
申し訳ないし、仕事とはわかっているけれど何もしなくていいとか言いそうだ。
そしたら彼らの仕事を奪うことになるし、ああキャパオーバー。

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