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目が覚める。
逞しい体に包まれて、目の前にそびえ立つ壁のような硬い胸板を押す。

「紅、今日は早く起きなきゃ」

「・・・んぅ、わか、てる」

「ほら、飯作るまでは寝てていいから放して」

ほぼ毎日している朝の一コマ。
今日はいつもより早いのだが、まず自分がちゃんと起きれたことに安心。
いつも起きている時間に車が迎えに来てくれるらしいので、眠いがそうゆっくりとはしていられない、腕の拘束から逃れると顔を洗って目を覚ます。

冷蔵庫の中身を確認し、さっと朝食を作り上げると紅を起こしに行く。
まだ眠そうだったが、一回起き上がるとその後はシャキシャキと動き出した。

朝食をとった後は着替えて貴重品などの確認だ。
寮の部屋のカードは、無くしてしまったら再発行に時間がかかるし、もし誰かに盗られたら今の俺の状況ではめちゃくちゃ危ない。
まあ結界があるから大丈夫だと思うけど、えーと、アラン、アランなんとか家の子息がこの学園にいるらしいし、マジで怖すぎる。

「失礼する。愛子、王、準備は終わったか?」

「はい。大丈夫です」

「大丈夫だ」

まあ紅は実家に戻るだけなので、そんな荷物があるわけじゃない。
俺もわざわざ持っていきたいものも無いので、着替えなど基本的なものぐらいだ。

荷物は黒羽さん達が持ってくれるので俺は手ぶらだ。
少し時間を貰って詩葵に挨拶に行くと、寝起きなようでぼーっとしてたけど、いろいろ頑張って来いよ、新学期はまた美味い飯楽しみにしてると言ってくれた。
翠が昨日の夜にたってしまったので若干哀愁漂う雰囲気ではあったが。

「じゃあ、気を付けてね。私も時間が取れれば伺いに行くよ」

「理事長・・・そんな、大丈夫ですよ」

「作戦会議しなきゃいけないんだよ?」

「そうゆうことですか。じゃあ待ってますね」

なんて軽口叩いて理事長に見送られて車に乗り込むと緩やかに動き始める。
カイン先輩はもう少し学園に残るようで、また何か元老院などから報告があれば知らせてくれるみたいだ。
今更だが、カイン先輩は代々元老院で権力を有する一族らしいのだ。
だからいろんな情報を教えてくれるし有り難いものだ

「今より3時間程したら空港に着くだろう。そこからは飛行機に乗り換えだ」

「わかりました」

飛行機ってあんまり乗ったことが無いから緊張するなぁ。
車内ではずっと寝ていたので、空港へはものの一分で着いたような感覚になりながら、飛行機に乗り込む。
6時間かかるそうなので、また寝ることにしようとベルトをしっかり閉めて目を閉じた。

次に目を開くと紅の顔のドアップだった。
思わず顔を押しのけてしまい、不機嫌そうな顔になられたけど仕方ない。
いつもは抱き込まれてるから紅の胸板とご対面で起きるのに、今回はいきなり吸血種の整いすぎた顔が視界いっぱいに広がってるんだ、驚かないわけがないんだ。
なんてつらつら文句を並べるが、とりあえず謝ってご機嫌取りだ。

「ここから2時間程で王の実家へと着くであろう」

「はーい。あー、また寝よ」

「ほら、しっかり歩け」

大きな欠伸をして、目もほとんど閉じた状態だったので紅にぶつかってしまった。
すると自然に腰に手が回り、支えられる。
こうゆうこと出来るところもまたイケメンなんだよなぁ。
小さい頃から教え込まれた成果なんだろうけど、と考えて改めて紅の実家恐ろしいと、紅の母親含め思ってしまう。
嗚呼、早速嫁姑問題勃発とかきつすぎるぜ。

「ふぁぁ・・・紅、お前の両親とか実家について教えて」

「頑張れよ、ほんとに」

「わかってるよ!だから対策を、ってね」

遠回しにお義母さんに気にいられそうな行動とかを教えてと頼み込む。
そりゃ黒羽さんの24時間体制のお供がついてるのだから、実害はないだろうけど精神的苦痛によって寝込むとか嫌だ。
というかもしもだけど本当に寝込んだら絶対に嫌味言われそう、まじ姑怖い。
完全なる被害妄想だけど、紅の話を聞くたびに予想が的中しそうな予感しかしない。

「兎も角、母さんについては耐えてくれとしか言えない」

「わかってるよぉ・・・でも、お願いだから二人っきりにするとかやめてね」

「我々がついておる。花嫁について信じずとも、黒羽を嘗めることはないだろう」

「そっか。流石に元老院とかには、ねぇ?」

「ああ。頼むぞ、透のことを」

「御意」

なに、なんか黒羽さんと紅がめっちゃかっこいいんだけど。
というか嫁姑問題に光が差して来たぞ。
うん、他力本願って言葉が凄くあてはまっちゃうけど、兎に角一安心。

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