「それでは、これで終業式を終わりにします。一同、礼」
教頭の声に軽く頭を下げ、学年主任の合図に合わせて大講堂を出ると教室に戻る。
担任に冬休み中は問題起こすなよとか課題忘れるなよとか、ありきたりな注意を受けてようやく解散となった。
「あー・・・眠かったぁ」
「眠かったって、正樹ずっと寝てたじゃねーか」
「うっさいなぁ詩葵!てか透だって寝てたし」
「おま、ばらすなよ」
「ふふ、僕も見てましたよ?」
「シアまでかよ・・・」
やはりと言うべきか、こうゆう行事は眠くなる。
理事長の話はまだ短かったので良かったのだが、校長と生徒指導の教師からの話が無駄に長かったので最初の10分程で睡魔に負けてしまった。
それはどうやら俺だけでなく、正樹に至っては最初から聞く気もなかったようだ。
詩葵は案外真面目なのでちゃんと起きてるし、シアは言わずもがな。
「じゃ、俺は翠迎えに行ってくるから」
「はいはーい」
今日は午前授業だったので、またみんなで集まり飯食ってお別れだ。
俺と紅とシアは明日の早朝に紅の実家へと向かう。
ちなみに正樹と翠は今日の夕方には実家へ帰り、詩葵は暫くは寮に残るそうだ。
詩葵もそこそこ強い吸血種の一族らしいので、次期当主争いというか相続争いというか、なんか面倒なのがあるらしい。
「あーあ、暫く透の飯食えなくなるのかぁ」
「帰ったらすぐ作ってやるから」
「僕も暫くは食べられなくなりますよ」
「え?なんで?透と一緒に行くんじゃないの?」
「僕も少しは実家に帰りますし、第一本家でお客様に料理なんて・・・」
「そっか、暫くはシアともお別れするのか。・・・紅の実家、ねぇ」
実際にすっげぇ名門の古くからあるらしい強力な吸血種一族だし。
まあ吸血種の王様ってのが出てくるぐらいなんだから、そんぐらいの一族じゃないとおかしいとも言えるけど。
いつも弁当食ってる場所に着くと、早速弁当を起き詩葵たちを待つ。
その間はまた冬休みのことについてや、今日の弁当の中身についてなどどうでもいいことだけど、暫く会えないとなるとこんな雑談でさえ大切なものとなってくる。
「あー・・・明日から見知らぬ土地かぁ」
「ガンバレよー!」
「正樹、せめてもっと感情込めろ」
「えーっと、がんばってぇー」
「今日の正樹の飯はサラダだけな」
正樹の悲鳴が聞こえてきたところで翠たちが合流したのでその後はまったりと食事に移り、雑談も交えながらの昼食になった。
翠には頑張ってと活を入れて貰い、少しだけだがこれからの気力が湧いてきた。
それぞれと別れを交わし、シアと共に部屋へ戻る。
シアも準備があるのですぐに別れた。
「ただいまー」
洗面所へ行って手洗いをすませ、リビングへ続く扉を開くといつも通り寛いでいる紅と、まさかの理事長とカイン先輩、脇に控えるように立っている黒羽さんが居た。
とりあえず挨拶して自室に鞄を置いてお茶を用意すると紅の隣に座る。
「よし、じゃあこれからのことについて話し合おうか」
「え、紅の実家に行くってことで決まってるんじゃ?」
「それ以外にもいろいろあるんだよ」
「そうそー。警護の強化は当たり前としても、敵がどんなのかがわかってないしね」
理事長の言葉に、そのまま続けるようにカイン先輩が話しはじめる。
どうやら元老院も敵の全体が見えないので対策のしようがないと困惑中らしい。
「でも怪しいのはシェイヴィネア家、リジアドル家、清宮家、アランディスト家」
「おや、アランディスト家も候補に、ねぇ?」
「そうですよ、理事長。・・・って透。今あげた名前一つもわかってないでしょ」
「すいません、カイン先輩。簡単でいいんで教えてください・・・」
俺以外の、理事長や紅は名前が挙げられていくとあそこの家が、とか反応を示していたのだが、俺には一つもピンとこない。
詳しく話を聞くと、シェイヴィネア家は最古の吸血種一族で、リジアドル家は最初の花嫁と王の子孫の一族らしい。
そして清宮家は紅の実家である神咲家の初代頭首の兄弟が先祖らしい。
アランディスト家は最北にある島で独自の文化を築きあげた一族で、編入生組の残りの一人がそこの一族の者らしい。
「えーっと、その、アランディスト家の人がこの学園に居るってこと、ですか?」
「そうだよ。ちなみに過激派ではないけど反共存派の一族だよ」
「・・・え、なにそれめっちゃ危ないですよね」
「まぁまぁ、本人は人畜無害そうだったよ」
「カイン先輩は会ったことあるんですか!?」
「うん。まぁ、でも本家の命令で、とかあるかもだから注意はしといた方がいいね」
ちなみに今挙げられた四家は濃い灰色ぐらいで確証は得られていないらしい。
もしかしたらだけど四家で手を組んでるかもしれないし、どこか一つの一族が、という可能性もある。
それに灰色のレベルなら危なそうな一族も他にもたくさんあるようだ。
その後も、はっきり言って聞きたくなかった情報を沢山聞かされてようやく話しがひと段落したようだ。
「・・・もう嫌だ」
「はは、じゃあ私たちはこれで失礼するよ」
「透、冬休み中はたまに遊びにいくかもだからねー」
「わかりましたよー」
最早投げやりな気分で二人を見送ることになった。
というか、想像以上にヘビー過ぎないか。