6

翠と共に料理を持って部屋に戻ると、シアと紅が待っていた。
俺は部屋に入り、シアは翠の部屋で夕食を食べるために外へ出る。

翠に頑張ってと小声で囁かれ部屋に入ると同時に閉まる扉。
なんだかスッキリした気分なので素早く紅の方へ向き直ると夕飯の入った紙袋を顔の横ぐらいまで持ち上げてご飯食べようかと言う。

「夕飯はなんだ?」

「鮭のムニエルとオニオンスープ」

俺は米がいいけど今から炊くとなると時間もかかるし、待っていると料理も冷める。
既にここに持ってくるまでに冷めているのだろうから早くしなければ。

キッチンからパンや皿を用意してプラスチックの容器から料理を取り出すと移し、スープはもう一度温めなおす。
ついでにプチトマトや野菜を簡単に洗って、添えれば出来上がりだ。

「紅、ワインは・・・ってもう用意してるか」

どうやら既に用意していたので料理をテーブルに置いてグラスを持ってくる。
紅はもう既に席についているので俺も座ると頂きますと言って食べ始める。

「どう?今日は翠と、さっき来てた奴と一緒に作ったんだよ」

「ん、美味い。そいつも料理上手なんだな」

「・・・俺の方が上手いし」

「知ってる」

うーわー、やっぱ嬉しいもんだなぁ。
にやけそうな頬を必死で抑えながら互いに無言で食べているだけだ。

心情的に軽くなったのでもっと話したいが、どうやらそんな雰囲気じゃないみたいだ。
心なしか、紅の表情も硬く見えて俺は食事をしながらそっと伺うしか出来ない。
そして、敵が動き出したとか、花嫁の力で悪い報告があったとか、俺の血で傷つけてしまった人がついに死んでしまったのかとか、嫌な想像が頭を占める。

嫌な想像ばかりしていたせいか、やはり顔に出てしまっていたらしく心配そうな顔をした紅と視線が交わって、ハッとした。
これじゃあまた吸血種に襲われたのかとか余計な心配をかけてしまう。

「どうかしたのか?」

「いや、別に。ただ紅が硬い表情してるから気になっただけで」

「襲われたとかじゃないんだな」

「当たり前だろ!まず翠の部屋にずっといたし」

なら良かったと笑った紅に俺も笑い返して夕食をさっさと済ませた。
何かあったなら隠さずに話してくれることを知っているし、特に気にすることは無い。

食器を洗って、ソファーで寛いでる紅と一緒にお茶を飲んでテレビを見る。
いつも通りの生活習慣だけど、やはり暗い顔をしている紅がいつもと違う。

「・・・どうかしたの?紅」

「俺の母がな、花嫁とかを信じない方でな」

「うん」

「お前を屋敷に入れたくないとか騒いでるって父から連絡が来て」

「まぁ、そりゃ俺男だし花嫁言われても特に力無いし」

「だがお前の血は最高だ」

「俺にそんなのわかるわけないでしょ?人間だもん」

「そうだな」

どうやら、俺は紅の母親に嫌われているらしい。
詳しく話を聞くと、紅の母親は所謂血統主義の人らしくて、紅には遠縁の同い年の吸血種と結婚させるつもりだったらしい。
流石に血の近い相手と結婚させるようなことはしないけど、どちらにせよ身内で結婚を繰り返しているそうだ。

「いきなり人間なんか嫁いで来られても困るってわけか」

「政府から公式に発表できればいいが、それは成人してからだしな」

「でも元老院から連絡はいってるんでしょ?俺が花嫁って」

「花嫁だろうが何だろうが嫌らしい」

「・・・冬休みはずっと寮にいちゃ駄目かな?」

「そうしたいが、警備などの面ではやはり俺の家の方が安全だ」

「でも、敵さんはそんなすぐ動いてくると思わないけど」

「・・・お前の血が盗まれたんだぞ」

そっと首筋に這わされた手が、想像以上に冷たかったからだろうか。
一瞬だけでも、紅が怖いと思った。
翠と話した離れるのが怖いとか、好きになりすぎるのが怖いとか、そんなんじゃなく本当にただ純粋な恐怖。

「わかってるよ、花嫁の血は王様のものでしょ」

「そうゆうことじゃなくても、お前はしょっちゅう襲われてたしな」

「過去形にしてくれて良かったよ」

「これからは本当にやめてくれよ」

「わかってるし!・・・ぁ、紅?」

ふいに紅の指がTシャツの襟を引っ張ると、右肩が露わになる。
そしてその指を離したかと思うと喉仏を撫でられる。

不安になって思わず名前を呼ぶと、紅の唇が俺のに重なって宥められるように言葉を奪われて、そっと目を閉じる。
暫くすると首筋にぬめった感覚、そのまま小さな痛みがはしる。

目を再び開けば慣れたはずの、紅が血を吸っている光景が広がる。
さっきみたいに怖いだなんて思わないけど、なんだかスッキリしたはずの胸中に再び靄が広がったのはなんでだろう。


[ 51/120 ]

[前へ 目次 次へ]
しおり

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -