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「透は今まですっごい自由にしてたからさ、制限が多いのは辛いでしょ」

そう言われて、そういうことかと気が付いた。
自分は今まで面倒で考えることが疲れるとかそうゆう時以外は、自分の意見をきちんと持ってそれを内に隠すではなく普通に発表できたりする。
勿論最終的には多数決とかで意見が通らない時もあるけどそうゆう時は納得して、通った時にはそれなりに筋を通した行いをしてきたつもりだ。

ようは、意見と言うか考えと言うか、自分の気持ちを言おうとも、多数決だとかそんなのでもなく決定事項だと抑圧されている現状が辛いのだ。

「うん、疲れる。この現状に納得はしてるけど気持ちが追い付いてないんだと思う」

「逃げようにも、環境がとかじゃなくて透自身が花嫁なんだしね」

「あー、マジで紅に見捨てられたら一瞬でさよならしちゃうじゃん命と」

「捨てられはしないでしょ!もう、そこは自信持とうよ」

「だって、花嫁だ何だ言われてるけど特別な力持ってねーし」

「それは僕も何にも言えないけどさぁ。透は、王様のこと好き?」

「好きだよ。まぁ、仕方がないとは言え抱かれるぐらいには」

「じゃあ、好きだから怖いだけだよ」

「・・・怖い?」

好きだから、相手が自分といる時以上に誰かと楽しそうにしてたらやきもきするのと同様に、自分と同じ感情が返ってこないかもしれないのが怖いのだ。
想いは言葉には出来てもそれが真か示すものは何もなく、行動だって王様がどうかは知らないけど悲しいことに気持ちが無くとも抱ける人も居るわけで。
今自分に与えられてる相手からの想いが嘘だったらって怖くなるんだと翠は言う。

続けて僕だって、詩葵に捨てられたらと想像してしまうんだと言う翠に驚く。
あんなデレデレとした態度を取るのは翠の前だけだし、常日頃翠と一緒のとこばっかだから気づかないが案外世話好きで責任感も強い奴だ。
そんな一面を気づかないぐらいには翠と居る時の詩葵はキャラ崩壊してるのに。

「可能性ってのは、星の数だけあるってよく言うでしょ」

「・・・不安?」

「そうだよ、詩葵に僕の気持ち伝わってるかわからないけど、僕は大好きだから」

俺の紅への好き、という想いはそんな強くはない。
少なくとも翠よりは。
仕方なければ抱かれるってのも、わからないけど紅だからなのかもしれない。
でも、この気持ちを肯定してしまえば翠のような不安を余計に抱くかもしれない。
それこそこの生活に不満も抱いていることを自覚したし、その上で唯一の絶対であると思われる紅に捨てられる想像を、これ以上したくない。
ただ自分が死ぬかもしれないから、吸血種を殺してしまうかもしれないから、その程度の不安でいいのだ。

「俺は、覚悟・・・とか言うのが足りないのかもしれない」

「うーん、そこは僕は愛子じゃないからわからないけど」

「誰かと話し合えればいいのになぁ」

「透は、本当に唯一の存在だからね」

でも、それは王様だって同じだよ。
そっと付け加えられた言葉に目を見開く。

「・・・自分のことで手いっぱいだ、俺」

「仕方ないよ。この状況になってからまだ一か月と少しでしょ、焦らないのが大事!」

「うん、ゆっくり考えてくわ」

「王様との時間はこれからなんだろし、ちゃんと整理した方がいいよ」

僕も相談に乗るよと言われ、嬉しくて笑う。
ちょっと今までシリアスすぎるお話しだったのでぎこちなくなってはしまったけど、翠のおかげで今の自分の心境を改めて自覚することが出来た。
冬休みはどうなるかわかんないし紅の両親とも会うことになるのだから緊張するけどゆっくりとじっくり考えていこう。

「じゃあ詩葵と正樹とシアの為にもお料理頑張ろ!」

「おぅ、やるか。今日何作る?俺魚食いたい」

「鮭買ってきてるよ。あ、ムニエルにしない?でも透はお家に戻ってからでしょ!」

「いいな。てかここで料理作って持って帰るわ」

「わかった。じゃあ僕材料買ってくるね。部屋から出ちゃだめだからね!!」

「いってらっしゃーい。俺はスープでも作っとくよ」

冷蔵庫を見ていると、スープを作るぐらいの材料は入っているのでそう言うと、頼んだと言って足早に買い物に行った。

翠と料理するのは楽しいし、紅と出会ってから休日を友達と過ごすってのが本当に極端に減っていたので随分と久しぶりだ。
本当はここで皆と一緒にご飯を食べたいけど紅が待ってるなら帰らなきゃいけない。
俺の好きの度合いがどれぐらいかはわからないけど、これはこの状況で仕方がなくそうゆう考えに至ったとかではなくただ純粋に、俺の帰る場所は紅のもとになった。

今はそれでいいのかな、と翠と話を出来たおかげで落ち着いた精神状態になれて、今日は本当に良かったなと一人笑う。
これからも翠のとこへ行きたいとか、たまには我儘いっても良いだろうか。
取り敢えずもっと会話をしてみよう。

これからの生活に、道標を示してくれた翠に感謝して、買い物から帰ってきた翠と料理を作り始めたのであった。

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