昨夜のことを翠に相談すると満面の笑みを浮かべられる。
内容が内容だし、他人にそうゆう性事情を知られるってのは気恥ずかしいものだ。
何はともあれ、俺と同じく吸血種と契約を結んでるのは翠だけで、頼れる相手が翠一人しかいないのである。
シアに訊こうにも純粋な子なので胸が苦しいし、詩葵だと立場が違うのであれだし。
週末に約束を取り付けて、詩葵と正樹は街にでも出て遊んできてもらうことにした。
夕方は一緒に飯作って待ってると言ったらすぐにおっけーサインが返ってきた。
まあ俺は作るだけ作って紅のもとへと帰るんだがな。
「いらっしゃい、透」
「お邪魔しまーす。カップケーキ作ってきた」
「え、本当!?うわぁ、いい匂い!」
「出来立てだからな」
「やった!じゃあコレ食べながら相談のるよ」
「ありがとう」
ついに週末になり、紅には人間の友達だから大丈夫と言って出てきた。
まあ翠はシアとも友人なので、シアも恋人がいますよと口添えしてくれたので黒羽さん達にもそんな厳しい目で見られなかったので良かった。
あの日から少々不自然な動作ばっかりしてしまい、お皿を割って指を切ったら紅が申し訳なさそうな顔をしながらもそのまま血を吸われて・・・など数回はあった話だ。
だからか、今翠のほわほわした顔を見てなんだか落ち着いた。
少なくとも今日は挙動不審な行動しなくても大丈夫な気がする。
ソファーに座り、出された紅茶を飲むと息を吐く。
思った以上に重苦しい響きを持ったそれに自分自身も苦笑してしまった。
「大丈夫じゃねーよ・・・」
「冬休みまであと一週間もないよ?」
「言うなよぉ・・・」
冬休みと言っても始まってすぐなのか、でも最後かもと淡い希望に身を焦がす。
したくないわけじゃない、だけどだけどと言い訳が頭の中を覆い尽くす。
「で、透は別にしたくないわけじゃぁ・・・ないんでしょ?」
「まぁそりゃ、な」
「じゃあいいじゃん。王様手馴れてそうだし」
「・・・だよなぁ」
最初痛かったり体に必要以上に負荷がかかると行為自体を嫌なものと捉えてしまうかもしれない、その分手馴れてて上手い人ならそんなことは無い筈だ、というのが翠の言い分で、確かに一理あるなぁとは思った。
俺だって初めての行為が痛すぎたりしたら二度目は是非ともご遠慮したいところだ。
「僕の意見に納得してくれた割には浮かない顔してるね」
「・・・だって、俺で満足してくれなかったらとか思うだろ」
手馴れてる奴なら特に。
今更俺を抱いたうえで他の人のとこへ行くのは流石に心情的にも立場的にも無いとは思う・・・なければいいのだが、もしもってのがある。
俺も立場に縛られているし五分五分だと言われても種族、という決定的な違いがある。
その上、紅は選びたい放題だし性格もまあ多少強引だが基本優しいし。
それに比べて俺はなんだ。
花嫁、という特殊な立場に居て守られねば生きていけないか弱い人間だ。
今だって人間は別として宝具を外せばすぐに襲われて命を奪われる、それかあの肌の黒化のような症状を出させて相手を殺してしまうかもしれない。
俺の場合は意識してとかそんなのではなく、この身に流れている血液全てが毒だ。
「んー、まあ透も今まですっごい我慢してきたからねぇ」
「そうだよ。今まで何とか乗り切れてるけど、何時殺されるかわかんねーし」
現に花嫁を奪いに行く云々の手紙まで届いている。
「ストレスがやばそうだね。まあ王様はある程度の自由は許してくれてるみだけど?」
「だからまだ爆発しないですんでるんだけどな」
「王様にもう嫌だって相談すれば?」
「前、女の子のお嫁さん欲しかったとか言いたいこと言ったけどスッキリ出来なかった」
「んー、完全に透の中での問題ってわけか」
周りは俺を守ってくれる。
紅はいつもそばに居てくれるし、シアとか含めいろんな友人もちゃんといるし。
悩み事を内に抱えたままな性格をしてるわけじゃない、むしろ思ったことは結構口にしてしまう性質でもあるし。
「まあ、たぶん生活の変化ってのが一番ダメージ喰らってるかも」
「確かにねぇ。部屋も変えさせられて、今は違うけど軟禁生活も送ってたし」
「なんかもー兎に角疲れたんだよ」
「夏休みも実家には正月しか帰れないんだよね?」
「ん。まあ両親は年明けたらすぐ二人で旅行行くけどな」
「はは、今でもラブラブなんだ」
「そこそこな」
疲れたなぁと来た時と変わらず重いため息を吐く。
相談に乗って貰ってる翠には悪いが時間はあるし愚痴をまだまだ聞いて貰おうか。