「なぁ、お前って俺のこと抱きたい?」
「随分な挨拶だな。普通におかえりと言ってくれないのか?」
「あぁそうだった、おかえり」
玄関の開く音がしたから立ち上がりキッチンへと向かうとお皿を用意して本日の夕食であるカレーをよそいでるとリビングへの扉が開かれ、何時みても整っているその顔を見ずに言葉を投げかけてみた。
見ていなかったのでどんな顔をしていたかわからないが、一瞬の間もなく返ってきたのでそんなに動揺はしていないのだろう。
若干悔しいがこちらも冷静にならなければ、馬鹿にされるのは御免である。
先程の問いに対する答えは返って来ず、後で聞けばいいやと待っている間に数回鳴ってしまったお腹をさすりながら考える。
今日、紅は冬季休暇中どうするか実家の人間や元老院の人、理事長などと話をする為に何処かへ行っていたようだ。
本当は俺にも関わることなのでついていきたかったが拒否されてしまった。
課題を片付けて料理を作ってる間は黒羽さんと少しお話ししながら時間を潰していた。
「紅、酒と緑茶どっち?」
「緑茶」
手を洗いに洗面所へ行った後、お皿を運ぶためにキッチンへときてくれる紅。
ここらへんは最初(と言っても一か月ほど前だが)より成長したと思う。
席に座り、半分ほど食べたところでもう一度同じ質問をする。
「で、お前は俺を抱きたいの?」
「抱かれたいのか?」
「そうゆうわけじゃないけど」
「なら何で急に?」
カインにでも変な入れ知恵をされたかと若干物騒な顔つきをする。
それを否定し、昼間詩葵たちと話していた内容をかいつまんで話をする。
「我慢は、出来るだけさせたくないし」
「・・・抱いていいと言うなら抱くが」
血を吸わせてもらっているのでそこまで我慢してるわけじゃないと言うのが紅の言い分。
それならそれでいいとは思うけど、いずれはすることなら若いうちにしたい。
なんて少々年寄り臭い思考をしているのは性格だ、気にするな。
「お前を抱くのはマーキングになるし、俺も力を貰えるしで良いこと尽くしだがな」
「っ・・・あんま生々しいこと言うなよ」
「透、お前が言い始めた話題だぞ?」
「そーだけど」
あーだこーだ言った割には直接的に相手に言われると恥ずかしくなるのはアレか、もしかして俺にはツンデレ属性でも備わっているのだろうか。
変なことを考えてしまうぐらいには慌てているらしい、落ち着こう。
「まあ兎も角、俺個人としては抱きたいがな」
「・・・こんなのに食指が動くのかよ」
「なんなら食後の運動でもするか?」
「親父臭い、ハゲ」
「お前なぁ」
止めていた腕を動かしさっさと食べ物を胃の中へと送り込む。
急ぎすぎてむせてしまったので案の定笑われたけどこうゆうのは気にすると負けなのだ。
でも結局は気にしてしまうから、恥ずかしいとかムカつくとか思って反応してしまう。
「ほら、皿あらうから紅もさっさと食えよ」
「あーはいはい、わかったよ」
睨み付けるように言うと俺が余裕を無くしているのに気付いたのか顔を意地悪にゆがめていたけど無視だ無視、絶対反応するもんか。
そしてキッチンへ皿を持っていくと隠れて小さくげっぷした。
やっぱり急いで食いすぎたらしい。
「あぁそうだ、透」
「何?」
「冬休みは俺の実家に行くからな。お前の家には正月の挨拶だけに顔を出す」
「ってことは正月以外は紅の実家に軟禁?」
「屋敷は結構広いからそんな暇じゃないと思うぞ。俺同伴なら外にも行ける」
「黒羽さん達は?」
「ついてくるに決まってるだろう」
「りょーかい」
紅の実家はこことはまた違った異文化を持つところであるし、まあ楽しみではある。
それに紅同伴なら外に行けると言うなら、その文化に触れることもできるだろうし。
実家の人達にその場所伝統の料理など教えて貰ってたら結構暇も潰せるだろう。
「お前の方の両親にもその旨は伝えておいたが一応お前からも連絡入れとけよ」
「わかった。てかお前の両親どんな人?」
「普通だ普通。少し小うるさいが」
「それはどこの家でも同じだよ、たぶん」
「だろうな。・・・それと、」
「何?」
「冬休み中にはお前を抱くから」
「・・・りょーかい」
半分冗談、だけど我慢させたくないと言う本心はあるという複雑な心境のこの話題は、紅の中ではあっさりとどうするかなど決められていたらしい。
俺としてもまあ、うん、男だし興味が全くないわけでもないしあーもうダメだ。
ちょっと、今日から同じベッドじゃあ寝れないかもしれない。