お昼を食べ終わり、紅にも血を与えて微かな眠気と戦っていたら玄関の扉が勢いよく開かれた。
その音に俺の眠気は何処かへ行き、紅は静かな空間を壊されたことに舌打ちをした。
「こんにちは、透君」
「どもー」
「こんにちは理事長、カイン先輩」
案の定いつものメンバーで、黒羽さんは仮面のせいでどの黒羽さんかわかんないけど。
あれ?なんか意味不明な日本語になっちゃったぞ。
突然押しかけてきたにも関わらず優雅にソファーに座り足を組む理事長は無駄に様になっていて少しだけ殺気が湧いたのは仕方ないとしてくれ。
そんでそんな理事長の様子に慌てて紅と俺を見たカイン先輩はいい人だ。
「どうしたんですか?いきなり」
もう頬の怪我もよくなり、教師の記憶も消して実験のために採られた俺の血も奪い返したのであと2日程様子を見たら普段の生活に戻っても良いと言われていたのに。
「それがね、面倒な手紙が届いたんだよ」
「手紙?」
「誰から来たんだよ、それ」
理事長の言葉に、顰め面していた紅もソファーに座りなおしてそちらに視線を投げかける。
俺もその手紙が一体何なんだとさっさとお茶を用意してすぐに座る。
理事長がそっとテーブルの上に出した手紙をみて溜息を吐く。
カイン先輩に至っては顔から表情を消したかと思えばその手紙を睨みつけている。
もしかしたら既に手紙の内容を知っているのかもしれない。
「読んでもいいんですよね?」
とりあえず確認すると隣に座っていた紅がその手紙に手を伸ばし、封を外していた。
俺も覗き込むようにその手紙を覗き込んだ。
「おい、なんでここからコイツの―――」
「・・・何、これ」
ほぼ同時に俺と紅の声が静かな空間に投げ出される。
俺はその内容に驚いて、悪戯じゃないのかと思って呟いたのだが紅は違うらしい。
それにコイツのって、もしかしなくても俺のことだろう。
「理事長?これって悪戯ですよね・・・」
「残念なことに、情報ではそうゆ計画を企てているところがあるよ」
「おい、俺の質問にも答えろ」
「紅君少し落ち着きなさい、そこから透君の血の匂いがして動揺するのは仕方ないけど」
「はぁ!?」
思わず声を上げた俺に理事長はただの模様だと思っていた薔薇のマークを指さす。
真っ赤なそれが俺の血だというのはもう薄気味悪さしかなく、顔をそらしてしまった。
「透を攫いに行くって書かれてあるが、対策は?」
「それは理事長が既に黒羽と元老院に連絡いれてあるよ」
すかさず答えたカイン先輩が頼もしく見えたけど、やっぱ俺から一番距離がある席を選んでる。
それはともかく、この手紙は本当に性質が悪すぎる。
『花嫁は正統なる王の下へ嫁ぐべき 近々迎えに行こう』
正統なる王って、俺が今身に着けている宝具は紅が王様だってことの証明だし。
というか近々迎えに来るって本当にお断りしたいのだけど。
「この手紙を書いた人って誰ですか?」
「すまないね、まだ調べがついていないんだ」
「でも、透の血があるからこの前の教師と手を組んでいた吸血種を調べればすぐ見つかるよ」
本当に申し訳なさそうにしている理事長に、すかさずフォローを入れてくれるカイン先輩の優しさが嬉しくて少しだけ笑みが零れ落ちる。
それでも本格的に俺の花嫁人生がこれからどうなるか予測もつかないことが怖い。
態度にすぐに表れてしまったのか、今現在俺の手が震えてるのがその証拠だ。
気づいた紅が俺の手を握ってくれた。
その温もりが安心感を与えてくれたけれど、それでも震えは止まらなかった。
「兎に角、早急に犯人は調べるからそれまでこの生活を続けて貰うしかないね」
「はい」
「久々に友達を部屋に連れてこよう、落ち着いて」
俺の体の震えと、強張った顔に気付いたのかそう言ってくれる。
正直その申し出はとても嬉しいけれど、何でもかんでも言ってしまいそうで怖い。
花嫁の情報は絶対に漏らしてはいけない最重要事項らしいし。
「紅はずっと透についててあげてよ」
「わかってる」
その言葉と共に二人は帰って行った。
俺は深いため息を吐いて紅の腕にしがみつく様に抱き付いた。
すぐに紅は体勢を変えて俺の体全体を抱きしめてくれたので、その熱に必死でしがみ付いたのだった。
第一章終了