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その後もどうやって俺を守るか、という名の俺を退学させるための会議が行われた。
俺はというと早々に抜け出してキッチンで無心になりながら野菜を切り刻んでいるところだ。

そりゃ死にたくはないから安全を確保すると言うのを最優先に考えると紅の実家なり元老院が保持する黒羽さん達が24時間体制で守ってくれるとこに行った方がいいのだろう。
わかってはいるけど正樹達と会えなくなるのはやはり寂しいと言うかなんというか。

「透ー、飯まだかよ」

「もうちょっとだから待っとけ」

「すっかり夫婦だねぇ」

「俺も透みたいなお嫁さん欲しかったな」

「あれは俺のだ」

包丁がまな板に叩きつけられて大きな音がする。
いきなり独占欲見せるとかそんな高度な技をいきなりされても困るんですけど。
というかまあ立場的には俺が嫁で妻っていうのはわかってるけど、花嫁と世間で呼ばれるってのは知ってるけど俺だって男なのだから少し複雑なのは理解してほしい。


「紅運ぶの手伝え」

「カインにでも頼め」

「そだね、手伝うよ」

お邪魔してる立場だから、と言ってキッチンまで料理を取りに来てくれるカイン先輩。
紅もこんぐらい手伝ってくれたらいい旦那さんだなーって思うのに。
まあ亭主関白で俺様な性格だから仕方ないと言えば仕方ないのだけど。

美味しいと言いながら全部平らげてくれたけど、少し量が少なかった気もする。
紅を見てても思ったけどやっぱりその力を維持するにはそれ相応のエネルギー摂取が必要なようで、カイン先輩も理事長もよく食べる。

片付けもカイン先輩に手伝って貰って、それからすぐに二人は帰って行った。
俺は皿洗いをして紅はまたあの難しそうな本を読んでいる。

「透、血」

俺と血をイコールで繋げるなと言いたいけど、紅にとって俺は飯作ってくれて美味い血の持ち主だってぐらいしか思ってないのだろう。
正直こちらも男が旦那かよとか思ってるけどまあこの生活にさほど不満はない。
というかもし相手が女の子だったらそれはそれで泣くかもしれない。
女の子に守られるとか男として悲しすぎるだろ。

「はいはい、ちょっと待って」

最後の一枚を洗い、食洗器に放り込んでから手を拭く。
そしてシャツのボタンを開けると言う最近義務化して慣れてきた行動をすると紅に向かい首筋を晒す。

「・・・お前は、この生活は不満か?」

「別にそんなことはないよ」

これは本当に素直な気持ちなのでむしろ何故そんなことを聞くのかと不思議に思う。

「でも自分が花嫁じゃなかったらと思うだろう」

「そりゃね、女の子のお嫁さんが欲しかったし」

お嫁さんの部分を少し強調してみる。
まあ何度も繰り返すけどこの世界で男同士の恋愛が認められているとはいえ、俺は女の子の方がいい。
それに危険な目にあうこともなかったのだろうし、失礼なことだが一般人におそれられていると言う黒羽さん達と関わることもなかったのだろうから花嫁じゃなかったら嬉しかった。

「それは俺もだけどな」

「・・・あっそ」

俺も言葉にして言ってしまったけど、相手に言われると案外傷つくものだ。
そりゃ紅だってその見た目だったら選り取り見取りだってのは勿論わかるし、どんな行動だって無駄にさまになるのは近くで見ててよくわかる。

「残念だけど、俺なんだから我慢してよ」

「別にお前が嫌だとは言ってない」

「俺も紅に不満はないし」

二人で言って同時に笑い出してしまう。
どっちとも不満じゃないのならなんでこんなことで俺は傷ついたり拗ねたりしたんだろう。
俺たちのいいところは二人ともすぐ言葉にしてしまうことかもしれない。

「ってわけで血吸わせろ」

「はいはい」

向き直して首筋を晒すと何故か紅は顎を掴むと顔を近づけてくる。
間近にこんな恐ろしいほど整った顔を見るのは何故か少し気まずくなるのだが勿論紅が知る由もない。
この行動がわからないほど鈍感でもないから、そっと目を瞑れば触れる柔らかい感触。
そして口元に痛みがはしったかと思えば口内に鉄の味が混ざる。

「ちょ、紅っ!?」

「これからこうやって血飲むかな」

「馬鹿っ、お前アホだろ!」

「うるさい、エネルギー補給中だ」

そう言ってべろべろと舐められると何とも言えないむず痒い感覚。
はやく終われと心の中で祈るのだが既に鉄の味も消えてしまったと言うのに口づけされたままのこの状態。
そっと目を開くと赤い舌や色気を感じる表情をした紅がドアップで写り、思わずその胸を押してしまった。

「お前な・・・」

「紅の馬鹿野郎!」

「なんでだよ」

不満そうな顔をする紅に何も言えずに、俯いていると紅は口元を乱暴に拭いそしてまた顔を近づけてくる。
今度は腰をがっちりとホールドされてしまったのでいくら押し返しても出来なくて、ただ近づいてくるその顔を見ない様に目を瞑るしかできなかった。


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