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「え、何それ?成績上げてくれんの!?」

「うん、俺の実験に付き合ってくれたらね?」

「なんの実験?」

「血、だよ」

成績が上がるのかと自分でも驚くほど早く返答する。
だが、血というのはあまり頂けない。

この先生は、年度始めの初回の授業で人間だと言っていたのでそう変なことにはならないだろう。
それにたまたま今二人っきりだから話を持ち掛けてきたのだろうし、血を提供してくれるなら誰でも良いのだろう。
なら、俺の血をあげても特には問題にはならないと思う。

それでも勝手に血をあげるのはどうかと思う。
というかもし今血を抜いたとして、吸血種達が集まってくるんじゃないか?
たぶんというかきっと紅にも怒られるだろうし。

「駄目?」

「いやー、駄目なわけではないんだけどさ、一応契約してる身な訳なんですよ」

「今答えをくれよ」

「だから俺だけで判断出来ないんですよ」

困ったように薬品を机の上に置いてから口を手で押さえて何か考えていた。
兎にも角にも俺だけで判断出来ないと言う言葉は事実なので早く戻って実験の続きをしたい。

「血、頂戴?」

「何回も言ってますけど、!?」

突如首筋に触れた冷たくて硬い感触に言葉が途切れる。
先生は目の前にいるので、先生の協力者、いや共犯者がいるのだろう。

「今から普通に血抜くか、首から滴れたのを採取するか」

どっちがいい?と不気味に微笑む先生に身体が震える。
その度にナイフが触れて、小さな悲鳴をあげてしまう。

今までなんだかんだで大丈夫だったし、俺の血は弱い奴には毒になるからって安心しすぎた。
それに、血で狂った人達が主に襲ってきていたので首を狙うだなんてことはしなかった。
理性のない者がどこを狙ったら死ぬかだなんて考えていない。
しかし今襲ってきている奴は理性はしっかり保っていて、俺を殺すことを目的としているのだ。

「あー、どっちも勘弁なんだけど」

「でもさ、研究には必要なんだよ」

俺見たんだぜ?と言い、先日の騒動の一部を語られた。
カイン先輩が俺に駆け寄ってくる前に先生は俺のこと見たらしく、襲ってきた吸血種の腕の一部が黒くなったのも見ていたとのことだ。

「すげぇよなーお前の血。だから、ちょっと研究に使うだけだって」

これが世に聞くマッドサイエンティストとやらだろうか。
だってそういう奴らって平気で血肉を集めるために人を殺すって聞くし、本当に危険な薬物を調合して科学兵器作ったりしてるんだろ?

「そんな、たまたまですよ。俺以外の人に頼めばいいじゃないですか」

いつもはちょっと失礼だけど友達のようにタメ口で口をきいていたが、今はそんな余裕みじんもない。

「ああ、もう他の人間も吸血種も数人実験したけどお前みたいなのは居なかった」

怖い怖い、まじで頭イかれてんじゃないだろうか。
言いたいし、震えは収まってきたとはいえ首筋のナイフは未だそこにあり続けるので下手なことはできない。

「で、いい加減血はどうやって提供してくれるんだ?」

「・・・・・・・」

「大事な生徒だから普通にやってやるか」

後ろの男に拘束されたまま椅子に座らされ、献血用の注射器を持ってくるとニタニタ嫌な笑みを浮かべながら近づいてくる。
血脈を探して、そこに針が突き刺さる。
その痛みに顔を顰めるけれど、先生は愉悦の表情を浮かべながら赤い血を眺めている。
暫くして満足のいく血が採血できて針が抜かれる。
その乱暴な動作に針が突き刺さっていた部分から赤いそれが一筋伝い、流れ落ちた。

「っ、いて」

「・・・・ああ、血だ」

その部分を手で押さえた瞬間に、すぐ後ろから恐ろしいほど低い声が聞こえてきた。
後ろに居る男と言えば、先生の共犯者である今現在俺の首元にナイフを押し当てている奴だ。
どうやらコイツは吸血種だったらしく、結構やばい状況に陥ってしまったらしい。

理性を失っているらしく、ナイフが一瞬首元から離れた。
その瞬間にさっと座っていた椅子から立ち上がり、楽しそうに血を眺める先生のすぐ横にまで移動する。
血を採った後はもう俺のことなんかどうでもいいらしく、なんらかの機械に小瓶に詰めた血をいれていた。

コイツが吸血種なら、血を塗り付ければなんとかなるんじゃないだろうか。
そんな考えが浮かんだ瞬間、銀色に光り輝く何かが勢いよくこちらへ向かってきてなんとか避ける。
それでも頬を掠めてしまったらしくそこからも血が流れ出る。

「っ、ぅ・・・くそ」

「血を・・・血を!!」

そう言って襲い掛かってくる奴に一か八かと目を瞑って攻撃を避けずにいると、大きな手が頬に触れてきて、そしてそのまま地面に沈んでいった。
強い吸血種じゃなくてよかっただなんてちょっと他人事に思ってみる。
それでも今の恐怖は紛れもなく一瞬前にこの空間を占めていたもので、体の震えは収まったように見えて、どうやらまだとまっていなかったらしい。

「・・・は、」

「ぐっうぁああああああああ!!!」

断末魔のような悲鳴を上げてぐったりと力を失ったように倒れる男の傍で腰が抜けたかのようにずるずると倒れ、尻餅をついてしまった。

先生は、何時の間にやらこの部屋から出ていったらしかった。


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