そして放課後。
今現在目の前には黒羽さんと紅、そして理事長が立っている。
ちなみに俺は床に正座している。
「愛子よ、暫く直接会うことはないと思っていたのだが」
「・・・すいません」
「透くーん、君って本当に面白い子だね」
「・・・ありがとうございます」
「透」
「へ、へい」
「なんで俺のだけふざける」
頭を叩かれて土下座に近い形となる。
黒羽さんはやっぱり仮面があるからわかんないけど雰囲気的にちょいと呆れているような気がする。
今までお姫様扱いされてたのでちょっと悲しいけどまあ、うんごめんなさい。
「で?なんで今度は顔に傷つけてきたんだよ?」
しかもまた吸血種が傍に倒れているだなんて、と呆れたように溜息を吐きながらことの経緯を尋ねてくる紅に小さな声でとりあえず不可抗力だと言い訳してから話し始めた。
*
シアは聞いていると思うけど、正樹達には改めて多少の説明を朝一限が始まる前に俺の血やべぇらしいと簡単にした。
それに対してこえーとか相変わらずふざけた反応を返した正樹と、血の効力を知っている吸血種である詩葵は妙に緊張した面持ちでそうかと返事をしてくれた。
シアはやはり普段より緊張しながら俺の警護をしてくれて、詩葵も今日に限っては翠と同等・・・まではいかないけどそんぐらい大事に扱ってくれた。
「あー面倒だな、次の授業サボろっかな・・・」
「それじゃあ僕もお供致しますね」
「いや、やっぱやめるわ」
護衛だからって真面目なシアを付き合わせちゃだめでしょ!!
本人はきっと絶対ついてくるだろうし、まず周りのシアのファンが黙っていないだろう。
ただでさえちょっとだけど目付けられてるみたいだし、俺。
恋は盲目好きな奴には尽くすタイプ、だなんていろいろあるけれどさ、結局自己満足なんだからやめて貰いたいんだけど、本人たちはマジで俺が無理やりくっついてるとか思っている奴らもいるみたいだし。
「次は数Tですけど苦手ですか?」
「それはもう大っ嫌いだよ」
「テスト前は教えてあげるからまた料理付き合ってね」
言い忘れてたけど今は昼食の時間なので翠もここに居て、事情はきちんと話しておいた。
自分だけ知らなかったって言うので結構怒るタイプだし、俺も言いたくないわけでもないので自然に言った。
余談ではあるが、数日会えなかったので正樹みたいに抱き付いてきて、詩葵の目線が怖かった。
とまあ、午前中は兎にも角にも平和だったんですよ本当に。
苦手な数Tもシアに迷惑かけながらもなんとか乗り切ったんだ、疲れたけど。
今日はもうこの授業で帰れるぞうえーいって変にはしゃいで、実験室へと向かった。
変にはしゃいだのは物理で、薬品を使った実験らいいので楽しみだと思ったのと物理は好きだからだ。
毎度お決まりの実験に関する注意を聞いてから実験が始まった。
しかし、みんながあれもこれもと試すので途中で薬品が足りなくなってしまったのだ。
ちょうど一番量が少なくなってしまったのが今回の実験で一番危険なものだったのでお隣の準備室ではなく物理専用倉庫の奥に閉まってあるとのことで先生が取りに行くことになった。
今回の実験は一回で結構な量を消費するものだったので大量に持って来なければいけない。
そこで近くにいた俺が荷物運びを手伝うことになっちまったんですよはい。
「桜月、荷物持ち」
「えーそんな・・・」
「平常点マイナスにするぞ」
「うわ、ちょっとそれない!!ひでぇ」
「さっさとついてこい」
シアとか詩葵は変わってやると言ってくれたんだけど、まあ指名されたしもしこれで平常点があがるんだったら得じゃん。
俺物理好きだけど苦手っていう残念なパターンなんですよ。
当然テストも赤点ではないとはいえそれないりに危ないギリギリの点だったので稼げるとこは稼いでおきたいのが心情だ。
じゃあちょっと行ってくるねー、と言ってから先生の後を追っていった。
「桜月、今回のテスト難しかったか?」
「・・・俺には難しかったです」
言外に今回のテストでなんであんな点とるんだよと言われてる気がしないでもなかったけど知らね。
倉庫に辿り着いて、中に入っていくと夥しい数の薬品や標本とかその他諸々がいっぱいあった。
キョロキョロと興味深くていろいろ見ながら奥の部屋へ行き、鍵がかけられた箱の中からビンを取り出して俺に渡してくるので素直に受け取る。
これは危ない薬品だから万が一にも割らないようにな、と忠告を受けて頷いた。
先生もビンをとって、また箱に鍵を閉めたのを確認してから部屋から出ようと歩き出す。
「・・・なあ、桜月は成績良くしたいよな?」
唐突に投げかけられた言葉に後ろにいる先生を振り返った。