13

起きると黒羽さん達はもうどこにもいなくて、代わりに目の前に寝ている紅がいた。
既に夕食の時間となっていたので起こさないようにそっと起きると急いでキッチンへと向かった。

昼間も思ったことだけど紅がいるのなら確実にこの量では足りない。
それでも今から黒羽さんを雑用で呼び出すのもあれだし、カイン先輩も先輩なので流石に失礼だ。

とりあえず非常食にとレトルト食品も少しはあったのでそれも活用させてもらおう。
後肉もあるからまあきっと腹にもたまりやすいし満腹感も野菜盛りなんかよりは出るし。
肉入りの野菜炒めと春雨スープをさっと作ってそれから和え物、サラダを作ってとりあえず終了。
普通に味噌汁を食べるよりは春雨が入ってた方が量が多くなるからと必死の知恵を振り絞って考えが功をなしたのか結構いい感じの仕上がりだ。

そんで紅を起こさなくては、とソファーで寝ている紅の体をゆする。

「おーい、」

「・・・ん、」

「こーうー、起きた?」

「あー」

夢うつつな感じでまだ完全に意識は覚醒していないようなので少し乱暴に肩をゆする。
されるがままになっていたけどちゃんと起きたらしくて俺が頑張って腕を動かしても紅の体は揺れなくなった。つまらん。

「飯、作ったけど食う?」

「あぁ。腹減った」

「そら良かった。盛り付けてくるから手でも洗ってまっとけ」

そういうと素直に従い洗面所へと向かう。
その間に言葉通りさっと更に盛り付けるとテーブルに運んでいく。

全て運び終わっていただきますと言うと彼も欠伸をしながら言う。
少し意外だったけど自然に言うので最初笑っちまうぜとか思ってたけど普通に嬉しいなって思った。
やっぱり、いただきますってのはよく材料へ、作った人への感謝だなんだって言うじゃん。
それを思えば少なくとも俺の料理を食べるうえで何も思わず、ただ出されたから食べるとかそんなんじゃないってのがわかるし。

そんで最近の俺の習慣と言えば紅の表情や小さく漏らす声を聞き逃さないようにすることだ。
意外にも素直に美味しいとかそうゆう感想を呟くことが多いので、それを聞いている。
やっぱり、せっかく作るんなら好きなものがいいよね。

嫌いなものも結構わかりやすく顔を顰めるもんだからみてて少し面白い。
この前納豆が口に合わなかったのか一口食べると口元を手で押さえ、これはもういいと言ってきた。
まあ独特な味するし、この国で小さいころから育ってきた人も苦手だとかよくある話なので気にしない。
俺も好きか嫌いかと言われれば好きではないし。

今日は肉野菜炒めが気に入ったのか大皿についでいたのを半分以上食われてしまった。
俺は野菜を主に肉をちまちまと食っていたのだが、最後に肉を食おうと思っていたのに時すでに遅しと言わんばかりに綺麗に肉はなくなっていた。
そりゃあその体力やら力やらを保つためには血だけじゃなくてこんな普通の食事も必要だけどさ。


食べ終わったら俺は片付けして、その間紅はコーヒー片手にテレビ見たり本を読んだり。
やっぱり予想通り頭はいいらしく難しい本をいつも読んでいる。
俺なんか時々しか読まないし、読むとしても短いものばかりなのに。

今日も紅は泊まるだろうと思っていたから片付けを急がなくてもいいだろうと思っていたけど、なぜか紅は立ち上がる。

「どーした?あ、風呂入るの?」

まだ沸かしてねーやと言うと首を振った。
俺としてはいつも通り泊まっていくのだろうと思って話しているので不思議でたまらない。

「え、じゃあ何?」

「今日は帰る」

「何で?あ、詩葵に戻ってきてもいいよって連絡しないと」

いつも帰るのが面倒くさいと言っていたのは紅の方だ。
そして俺はいつも布団に侵入されるのでむしろ帰れと言っていたぐらいなのに。

少し気まずそうな顔をする紅に不思議に思い、畳みかけるように尋ねるけれど口をもごもごさせるだけだ。
俺は超能力者でもないし吸血種でもないし、本当に平凡な人間なので言って貰わないと困る。

一応帰ることには納得したけど詩葵の話を出したらそれにはやめろと言ってきて、息を大きく吸うと俺に向かって告げる。

「・・・血、吸いたくなんだよ」

「え、」

「まだ臭う」

「まじかよ・・・」

確かひと眠りする前にもう一度傷口を綺麗に洗って消毒しなおして、清潔な包帯を巻いたはずだ。
それでも臭いがするってことはそれだけ俺の血が 吸血種にとって毒であり蜜であることの証明である。

「カインがダメな時点で、お前の同室が正気を保ってられるわけねーだろ」

「あー・・・うん、そだね」

確かにカイン先輩には今まで案外大したことないとか弱いとかいろいろ言ってたけど当初は王の候補にも入るぐらいの実力者だった。
実際に紅とかカイン先輩とかの戦うところなど見たことはないけど並の吸血種でもやべぇ怖いと思う。
その中での王様候補に一時期でも入っていたとなれば相当なんだろう。
そんな人でも駄目とか俺の血怖すぎる。

「吸っていいなら帰らねーが、まあ昨日も吸ったからな」

「ん、出来れば帰ってほしいなー」

だろ?と言うとすぐに玄関に向かっていく。
その背を追いかけておやすみ、というとそっと唇に紅のそれが重なる。
最近慣れてきたのでもう何も言わないけど、やっぱり顔が熱くなったのは仕方ない。


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