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真っ赤な真っ赤なお月様。

何百年に一度、悪魔に愛されし子供が生まれるその夜。
その子はありとあらゆる魔物を引き寄せる甘い甘い蜜を持っているんだ。
その香りで相手を誘惑する。

だけど、魔物をも狂わせるその香り。
危険な誘惑に乗せられた魔物は狂い、その子をも殺してしまう。
やはり魔物は恐ろしい生き物だからね。

だからそのときに生ける者全ての中で一番強いものがその子を手に入れる。
あぁ、それは素晴らしいことだね。

でも、それではダメなんだよ。

その子に愛されなければいけないんだよ。
甘い匂いに惑わされない意志を持ち、その子自身を愛せるぐらいの想いを持たなくては。
そうすればさらなる力を手に入れられるんだ。

強い、強い力をね。

                *

「・・・こんな話本当にあったらその子とやらは可哀想だな」
試験勉強のために滅多に訪れない図書館に行ったら偶然見つけた一冊の本。

今日決めた課題を一通りこなした頃には既にあたりは暗く、残っている人も少ししかいなかった。
その少しの人たちも帰り支度を始めていた。
自分もそれと同じように出ていたノートや参考書を鞄に入れる。

荷物が全部詰まって重くなった鞄を肩に、歩みを進めようとした時にふと机を見ると古びた表紙の本。
近くに座っていた人が大量の本を適当に持ってきて読んでいたから、しまい忘れたのだろう。

そう思って本を手に取る。
手にとってみると、それがどんな内容か気になってしまい結局借りてしまったのだ。

司書さんも帰る支度をしていたのでこんなギリギリに本を差し出すと苦笑していた。
いやぁ、申し訳ない。


寮に戻ってシャワーを浴びる。
冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターを開けて飲む。
火照った体に冷たい水が心地よかった。

ペットボトルの半分ぐらいまで減ったそれを冷蔵庫に終い、ベッドへと向かう。
髪を拭きながら鞄を探るとあの古びた本が。
今日の課題も終わったことだし、髪が乾くまで寝れないから読んでもいいかと思い、そっと手を伸ばしたのであった。

そして冒頭のつぶやきへと戻る。

厚みの薄い本だったので集中していたら1時間程で読み終わった。
本を閉じて体を傾けると柔らかいベッドが受け止めてくれた。

相思相愛になりたい。

そう思うのが普通なのに。
きっと魔物はその子を本当に愛することはないんだろう。
己からの愛がなくてもその子から愛を貰えばプラスで力まで貰える。

本当に素晴らしい物語だ、魔物にとっては。

その子は愛されていないかもしれないことを理解しているのだろうか?
独り善がりに魔物に力を与えているんじゃないだろうか?

そんなもの、いつか相手に大切なものを散々奪われた挙句殺されて終わりになるんだろう。

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