暫く無言の戦いがあったが結果的に俺が負けた。
「・・・先輩、狭いです」
「紅と呼べ」
「呼ぶから出てけ」
「いやだ、お前暖かいから」
狭いベッドで最大限の努力をしようと思った矢先に抱きしめられる。
硬い、鍛えられた胸元に頬が押し付けられた一応押し返してみるけれど当たり前に無駄だった。
「てか敬語はやめろよ、さっきのが素なんだろ?」
「・・・紅も最初と話し方全然ちげーし」
「お互い様だ」
「ソーデスネー」
とりあえずもう既に眠気が脳内の三分の二を埋め尽くしているので目を瞑った。
本当に最近は寝てばっかりだな俺。
紅が体を少し折り曲げて首筋に顔を埋めてくる。
「おま、やめろ。なんか怖い」
「もう吸わねーよ。まぁ、いいなら吸うけど」
「今吸われたら俺は確実にあの世行きだけどな」
「・・・わかってるよ」
体の力を抜いてそのまま抱きしめられたままでいるとなんていうか、包容感がすごくて安心した、なんて絶対に言うもんか。
今日が休日とはいえ俺は結構時間通りに起きるタイプなので平日よりは遅いが大体いつもの時間に起きる。
体も沢山寝すぎるよりはいつも通りの生活習慣のが良かったらしくあの気怠さはもうない。
とりあえず朝飯作ってとあれこれ考えるがその前に目の前の旦那様(笑)を起こさなくてはいけない。
体をがっちりとホールドされているのでこれを外さなくてはまず起き上がれない。
そういえば指輪とか取らずに寝てしまったなと思い返せば紅が外してくれたらしくサイドテーブルの上に乗っていた。
朝起きたらすぐに嵌めるのを最近の習慣にしていたので嵌めたいのだが腕すら動かせない。
「おい、紅。起きろ。一分でいいから起きろ」
「・・・ん、・・・あ゛?」
これまた寝起きの掠れ声プラス低い声のいわゆるいけイケボに少し、本当に少しだけ鳥肌が立った。
寒気とか不快感という意味ではなくて、ちょっと、うん。そうゆうかんじの意味で。
「朝飯作るから放せ」
「・・・魚が食いたい」
「あー、鯵の開きでいいか?」
「ん」
「作ったら呼ぶからそれまで寝てれば?」
ある意味拘束された状況から逃れ、ネックレスと指輪を嵌めながらそう言えばすぐに夢の世界へ戻って行った。
何ていうか朝強そうなイメージあったが正反対で弱かったらしい。
とりあえずこの前買った鯵があってよかったなーと思いながらさっと顔を洗って台所へと向かった。
作り終わり紅を起こすのだがなかなか手強くて起きてくれなかった。
朝から無駄な労力を使ってしまったと思いながら目の前で飯を結構なスピードで平らげている男を見た。
その体格に見合うとおりによく食べるので昼の分もとご飯を炊いたのだが明らかに足りなくなってしまった。
いっそのこと全部平らげてくれと思うのだが残念ながらそれはなかったようだ。
一息ついてご馳走様と律儀に言う彼に、お昼はもう焼きそばとか簡単に多くの量を作れるものがいいかな。
なんだか無駄に所帯じみた考えというか思考になっているなあと思えば、これから案外上手くいくようにも思えてきた。