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そろそろ本気で死ぬんじゃないかというところで唇が離され足りない酸素を思い切り吸い込む。
頭に霞がかかっていたぐらいなので結構やばかった気もする。

「っは、は・・・はぁ・・・」

「あー・・・無茶させたな、すまん」

「ほんと、無茶させすぎですよ・・・はぁ」

飯は適当に買ってくるから休んでおけと言われ、ソファーにずるずると沈み込んでいく。
無駄に気持ちがよかったキスは体を昂らせたけれどそんな気分になる前にとにかく疲れた。

扉が閉まる音と玄関の扉が開く音を聞きながらそっと目を閉じる。
どちらかといえば寝たい気もするけど栄養を何か補給しなければ死ぬ気もして怖い。

それから数分経つとまた扉の開く音がしてだるい体をなんとか動かして視線を向ければ紅先輩。
両手にビニール袋を持っているけどまた俺が一つで先輩が二つも三つも食べちゃうのだろう。

「ほら、とりあえずなんか食え」

「ありがとうございます・・・」

「これ食ってさっさと寝ろ」

「はい」

おにぎりやらサンドウィッチやら惣菜やら肉やら、本当にたくさん買ってきてくれた。
今日は肉を食べるような気分ではないのでとりあえずおにぎり二つと惣菜を選んでさっさと蓋を開けると食べ始める。
生き返る、とまではいかないがやはり少しの活力は戻ってきた気もする。

それでも体はまだまだ怠くて食べるために浮かせた腕すらも持ち上げるのもちょっと辛い。
水を飲んで少しつまった米を飲み込んでそれからまた口に含む。
それを何回か繰り返して食べ終わったけれどベッドに行って早々に寝たほうがいいんだろうけど体が動かない。

「紅、先輩・・・」

「なんだよ」

名前を呼ぶと俺が食べたもの以外で先ほど買ってきたものを平らげている先輩の姿。
米粒が口元についていてなんだか可愛い。
そっとそれをとって口に運んでから少し睨むように視線を合わせる。
暗に動く気力がないから運んでくれと言っているつもりなのだが気づいてはくれないらしい。
いっそのこと両手をそちらに伸ばせばいいのだろうか。
言葉でいうのはなんだか恥ずかしいから嫌だ。

俺の視線に少しキョトンとした顔で見つめ返してくるけどやっぱり俺の真意は伝わらないらしい。
わざとらしく咳き込んでから息を吸って言葉を紡ぎだす。

「体、うまく動かないのでベッドまで運んでもらえますか?」

「あぁ、そういうことか・・・ん、わかった」

最初に小さく呟くとすぐに頷いてちょうど食べ終わったらしい空になった容器をテーブルの上に乗せた。
そして俺のほうに手を伸ばし背中と足の関節のところに手を入れ、いわゆるお姫様抱っこをしてきやがった。

抵抗したいのはやまやまなんだけど体力と気力がもう限界まで擦り減らされている状態でできっこない。
今はそんなことより睡眠という疲れを回復させることをしたいのだ。

一応一般的な男の体格の俺を軽々と抱き上げ、安定した足取りで歩く先輩を思うと少し悲しくなる。
それは男としてもそうだし人間と吸血種の差としてもだ。
こんな化け物みたいな人たちに狙われるかもしれないだなんて本当に悪夢でしかない。
今、ここが夢でこれから見るであろう夢が現実だったら良いのにと軽く現実逃避を行ってみた。

「おやすみ」

「・・・おやすみなさい」

そっとベッドの上に乗せられ寝る前のあいさつを済ませる。
先輩が部屋から出ていったのを見送ってから息を吐いて目をすぐにつぶった。

するとなぜかもう一度扉の開く音がする。
先輩が帰った音かと思うけどそれにしては音が近すぎる。
もう一度目を開くとベッドの脇に立ち進行形で俺のベッドの中へと侵入しようとしている先輩。
先輩はこのシングルベッドという狭いなかに入ろうとしているのだ。
はっきりいって正気の沙汰とは思えないのだが。


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