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このまま動物の血で我慢してもらいたいところなのだが前に動物より人間の血の方が美味いと言っていた詩葵を思い出す。
それに今先送りにしたってどうせしなくてはいけないことなのだろう。

「・・・・どうぞお好きに飲んでください」

ソファーに座る俺と先輩の距離を一気に縮めてこちらを見つめる先輩の目と合わせる。
痛いのは本当に嫌だけれども大丈夫といっていた翠を信じて・・・信じれない!けど頑張るよ俺。
もうはやくしてくれと急かすような思いを込めて見つめているとそっとシャツのボタンに手がかかる。

いつの間にか俺の心臓は狂ったように音を鳴らして捕食される時を待つ。
この場合は自分から捕まりに行ったようなものだけど。
第二ボタン、第三ボタンをあけられて暖房を効かせていたはずの部屋が妙に寒くてたまらない。
剥き出しになった首筋を撫でられて思わず震えると気分が良いらしい先輩が笑う。
お前そういう加虐趣味があったのかと年上だ何てことも忘れて叫んでやりたいけれど出来やしない。
ただひたすらに待つだけ、痛みが訪れてやがて去っていくのを待つしかないのだ。

「・・・・っ、」

「んな緊張すんな」

「で、も・・・・」

マジで痛いの嫌いなんだよーと心の中で叫ぶ。
息がかかるほど首筋に近づかれて思わず小さな悲鳴が喉の奥から湧き出てくる。

「ぁっ・・・何、舐めてるんですか」

「血管を捜してるんだよ、気にすんな」

「気になるんですっ、よ」

冷たくて妙に柔らかいぬめったものが肌を濡らしていく。
その感触が正直言って気持ち悪くて逃れようと身を動かすけれどスッと首に絡みつく手に動きを止める。

「いい子だ」

その言葉とともに一瞬身を引き裂くような痛みが訪れるがすぐにそれは消えて不思議な感覚がする。
ちらりと首筋に顔を埋めた先輩を見ようと視線を傾けると一瞬顔を浮かせた先輩の赤く濡れた唇に目が行く。
たぶんその真っ赤な液体は俺のものなのだろう。
それを自覚すると妙に恥ずかしくてたまらなかった。

「っう、ん・・・」

溢れ出るそれを一滴も残すまいと傷口を抉るように舐められる。
思わず、縋り付くようにその大きな身体に腕を伸ばす。
こんなものが美味しいのかと思うけれど種族事態が違うから常識が違うのは仕方ない。

シャツを力のほとんど入っていない手で握り締めてこの不思議な感覚を耐える。
かみ締めないと声が漏れてきそうできつく唇を結んでいると何時の間にか鉄の味がするというかなんというか。
たぶん力を込めすぎてしまった結果であろう。
鉄のような独特のこの味をどうしたら美味しいと感じるのか本当にわからなくなってきた。

飲まなければ死ぬ、だから飲む。
別に好きで飲んでいるものではないのかもしれない。

「透、終わ―――」

不自然に途切れる言葉。
首筋から顔が離れ、ホッとして肩の力を抜こうとした瞬間に唇をふさがれる。
たぶん先程唇からでてしまった血をなめるためであろう。
それでも男に二度も唇を奪われるだなんて悲劇以外の何ものでもない。

いやでもたぶんこれからキスするのも俺の血を吸うのもこの人だけなんだろうけど。
嗚呼やっぱり悲しいなぁとしみじみと思っていると舌が口腔のなかに進入してきて己のと絡まされる。
もちろん抵抗したけれどただでさえ血も少なくなって唇もふさがれて酸素が回っていない。
つまりは完全に俺の敗北を示していた。



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