シアと正樹と俺。
詩葵は翠を待ってここにはいない。
「一昨日は誕生日だったんですよね、おめでとうございます」
お前もそんなにこの指輪が気になるかと言いたいけれどシアの素直な好意の挨拶に笑って返すので我慢。
因みに正樹もさっきからチラチラと指輪を見てくるので一回殴っておいた。
「遅くなってごめんねー」
「そんなことよりお弁当ー!!お腹すいたよー」
「そんなに喚くなら野菜も食えるよな」
「ごめんなさい」
降参のポーズをする正樹に一安心、だけどまだ不安があるのか俺と対極の位置に座る詩葵に不満。
とりあえずいただきますして適当に取り分けていつも通りの昼食。
「てかさぁ、なんで詩葵一昨日はいきなり出てったのー?」
「っぶ、・・・いやえと、」
プチトマトを思いっきり飛ばしやがったよコイツ。
テンパってトマトが転がっていったのにも気付かずに言い訳を始めているがもう言葉になってない。
「落ち着いてくださいっ!!」
とりあえずシアナイス。
シアが渡した飲み物を勢いよく飲んでそして気管に入ったらしくてゴホゴホ咳してる。
馬鹿なのかとか言いたかったけれどその理由の主な原因というか百パーセント原因の俺は何も言えない。
詩葵はとりあえずもう一杯飲んで落ち着いたみたいだけどこちらに視線が刺さりすぎて困るんだけど。
「えっと、その・・・透がッ!!」
俺がなんだよって俺もよくわからないんだけどさぁ。
てか俺が説明するのが一番なのかもだけど頑張って言おうとしてるからとりあえず俺は黙ってる。
「凄い美味そうだったんだよぉ!!」
吐き出す様に言ったけれど俺正直今の言葉に引いたわ。ちなみに正樹とシアは溢れ出る不快感を隠せなかったようだ。
翠はその言葉に一人別次元へ飛んでしまったらしくピタッと箸を口元に運ぶ姿勢で綺麗に固まっていた。
「・・・あー、うん。お前らだから話すけどさ、俺愛子らしいわ」
「そうなんですか、だから美味しそうだと」
「へー凄い、まじで花嫁だったんだ―」
「うん」
シアのファンが煩いという事もあり誰もいない旧校舎の教室で食べているので普通に話した。
俺があまりにも普通だから皆もさほど興味も示さずに返してくれて一安・・・
「うっそぉ!?マジで?!?」
「え、やっぱそうだったのかって、どうしよう!!」
ちなみに上から正樹と詩葵。
まったく一安心じゃなかったよてか煩いよお前らとか言えない雰囲気。
「ほ、本当なんですか!?」
シアも興奮気味に聞き返してくるからイエスと返してやった。
こんな平凡な男子高校生が花嫁だなんてそりゃ信じられないだろうし俺だって信じたくないんだけどさ。
「じゃあ、王って誰なの?」
別次元から帰ってきた翠の声に皆の視線がこちらに集まる。
「てか俺が花嫁なのも誰にも言うなよ?」
「わかってる!!」
「・・・シアのご主人様の神崎紅先輩だよ」
こいつらならまあばれてもいいと言うか詩葵はもう予測してたと思うし。
でもばれちゃいけないので念には念をと何回も注意する。
「この事を人に話したら元老院から黒羽って奴等が口封じに殺しに来るんだってさ」
俺はよく知らないが黒羽は汚れ仕事担当の奴等だったらしくてこの一言に皆固まった。
ちょっと脅かすつもりで名前を拝借しただけだったんだがこんなにビビるとは思わなかったがまぁいい面白いから。
「も、勿論だよ・・・俺まだ死にたくない」
「俺も死にたくない」
「本当に死にたくないです・・・」
口々に死にたくないと言うけれどまあちょっとたちの悪い冗談だったらしい。
とにもかくにも皆から絶対に言わないよという約束がきちんと守られると宣言されたのでよかった。
「まあシアはご主人様から聞くんじゃねぇの?」
「あ、放課後大事な用があるから来いと言われました」
「多分この事だよ」
「ですね・・・心構えが大変だと思ってたのでよかったです」
主人と話すのは緊張するけれど更に大事な話と言われていたらしく怯えていたらしい。
確かに紅先輩の顔は吸血種の王だからか整い過ぎて真顔の時に直視するのは些か怖い気もする。
正面から見たことないから分からないけどさ。