スッと箱が黒髪さんの方に差し出されてそっと開ける。
細い腕輪を取り出すと理事長たちの驚きの声が聞こえる。
ああ、この人が本物なんだ。
「右腕を出せ」
腕を伸ばすと裾を捲られてそこに嵌められる。
目立つものではないしチャラチャラと音がたつような物でなくてよかった。
でもこう、装飾が本当に豪華で身の丈に合わないものを付けられていてなんかむず痒い気分だ。
次は両足首につけられる。
残りはあと二つ。
なんか拘束されている感がありすぎて嫌だ。
「少し、前かがみになってくれるか?」
身長差は物凄くあるので前かがみになることもないけどと僻みを言いそうになる。
いくら吸血種だからと言ってその長身は規格外だ。
これでデブとかだったらまだ救いようがあるのだけれど(主に俺に)。
ネックレスがかけられて小さな星と十字架の飾りが俺に物凄く似合わなくて怖い。
最後の箱が差し出される。
黒羽のリーダー的な人が持っているその箱は他のどの箱より豪華だ。
「左手を出せ」
「・・・・・・・・」
すると箱から取り出したのは小さな宝石が付いた指輪。
そう言えば、契約って指輪を交換し合う・・・・え、あ・・・うん。だってこの人が王様だしな。
俺は愛子だから、誰を好きになろうと結ばれるのは王だけ。
それだけが周りから祝福と大きな拍手を貰えるものだから、選択肢などない。
左薬指に嵌められたその指輪。
さっきも拘束されているみたいでいやだと思ったけれど。
これって足枷とか首輪みたいに思えて思わず指輪を見ながら顔を歪めてしまう。
「愛子よ、次はあなたでございます」
六つめの箱を受け渡される。
それを手に取って開けてみると俺の指輪ととてもよく似たデザインの指輪だ。
これがいわゆるペアリングと呼ばれるものか。
「手を・・・」
そう言えば無言で差し出される左手。
俺も左薬指につけてあげればいいのか。
そっと差し込むと黒髪さんも指輪をじーっと眺めている。
これで終わりかと思ったのだが黒羽さん達が理事長たちから隠す様に移動する。
身長もあるのでこの位置からだと何しているかわからないだろう。
実際に理事長とカイン先輩の不満そうな声が聞こえる。
一体如何すればいいのかわからずとりあえず頼りの黒髪さんを見る。
すると覚悟を決めたとでもいう様に眠そうな顔とは一変、真剣な顔つきだ。
「では、愛子と王の誓いを―――」
その言葉を合図に腕を引かれる。
そちら側に寄せるように引っ張られて黒髪さんとの距離が縮まる。
次に腰を曲げて屈みながらキスしてきたのはネックレス。
そして右腕に輝く腕輪にキスをしてくる。
いい加減終わりだろと思ったのだがまさか跪いて両足首の飾りにまで口づけされる。
「・・・・うぅ」
もういたたまれない。
なんで、何これ羞恥プレイを公開するとかどんだけですか黒髪さん。
この流れだと後は指輪だけだ、耐えろ、耐えるんだ俺。
そっと左手をとられて指輪にキスをされる。
これで終わりだと思ったら手の甲にまでキスをされて頭の中で火山が噴火した。
「・・・・・っ!?」
ああ、これが穴があったら埋まりたいと言う心境か。
いいかげん手を離せよと俯いてわたわたしてた視線をあげて彼に向ける。
紅色の宝石のような―――そう、まるでルビーが埋め込まれているような瞳。
それとが己の視界いっぱいに広がって。
嗚呼。
俺のファーストキスの相手はこの男なのか。
柔らかい感触が俺をクラクラ酔わせて、何も考えられないよ、もう。
序章完結