16

結局夕飯も翠の部屋で食べることになって帰路へ着いたのは19時ごろ。
もう泊まろっかなーと思っていたら詩葵が辛そうに部屋を飛び出していったので解散となったのだ。
暖房の効いた部屋から一変、勿論適度な空調は利いているものの少々肌寒いところがある。

そう言えばあの夜もこのぐらいの時間に買い物に行ってたんだなぁと思ってエレベーター。
上に昇るボタンを押さなきゃいけないのに気が付けば下へ向かうボタンを押していて。

「・・・どんだけだし俺」

無意識とか本当に怖いから止めてとか言いながらも目の前で扉を開いたエレベーターに乗り込み一階を目指す。
もうここまで来たら直感に従ってみようか、変に自分の中の違和感に抵抗するのも面倒臭いしと言うなんとも適当な理由で。

軽快な音と共に動きを止めて開いた扉。
一歩踏み出して中から出ればあらまあ昼間見た・・・カイン先輩のお姿。
その隣にはたまに移動中などに見かけたことのある先輩の姿もあって、食堂へ行くのかと首を傾げる。
だけどとりあえず先輩だからと軽く会釈をする。
するとカイン先輩は少し辛そうな顔をして無理やり笑い、隣の先輩は。

「――――っ!?」

目の前にいつの間にかいる。
驚きで目をパチパチさせると首元に手をかけられてシャツを握りしめる。

「っ!おい、やめろ!!」

シャツが破かれる前にカイン先輩がその先輩の襟をつかんで俺から引き離す。
そのあまりのスピードに驚いていると焦りながら叫んでくる。

「早く!!早く部屋に戻って!後で行くから大人しくしていて!」

「へ?・・・あ、俺の部屋番号は」

「そんなの後で調べるから早く!!」

「はいっ!」

あんまりにも苦しそうな表情と、押さえつけられている先輩の呻き声が怖かった。
そのまま今出てきたばかりのエレベーターに乗り込むと自分の階――五階のボタンを押す。

・・・・俺は、愛子なのだろうか。
吸血種が狂ってしまう程の何かがあると、それが目覚めるのは―――十六歳の誕生日。
そんなはずがない、まさかと思いつつもあのいきなり襲いかかってきた名前も知らない先輩の姿を思い出してゾッとする。

自分を抱きしめる様に腕を回すけれど何の気休めにもならない。
早く自分の部屋に入ってなんでもいいから安心したい。

動きを止めたエレベーターから一目散に降りて部屋の前へ行きポケットから荒々しくカードを出すと早く開けとかざして室内へ入る。
それでも安心できなくて、鍵を閉め、チェーンも付けて靴を脱いで寝室へと向かう。
電気を付けようかと思ったけれど室内に居るとばれたらいやだと結局個人部屋へ行き布団をかぶる。

さっき先輩が会いに来ると言ったけれど、先輩も吸血鬼だ。
本当に信じていいものなのだろうか、庇ってくれたけれどとても苦しそうだった。
密室なんかに入ってしまったらたちまち非力な俺なんて毒牙にかかって一発であの世逝きだろう。

「・・・・・っ、」

もしかしたら、詩葵も苦しそうにしていたの俺が居たからだろうか。
ってことはもう二度と詩葵と会話もできない、いや同室という事も問題となって・・・
そう考えたら寂しいものだ

「まぁでも詩葵はだし友達。カイン先輩は良い人だったし。」


涙が一筋流れた。
布団を目元に当てて涙を吸い取ってもらう。
そうすればもう欠伸はでなくなって、なんていうか

面倒臭くなってきた。

「あー、なんか疲れた。眠い」



呼び鈴が鳴る。
布団から出なくてはいけない。

「・・・・・・・・・・・おやすみなさい」




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