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そんなこんなで誕生日当日。
嬉しいことに休日だったので午前はゴロゴロして1時に翠の部屋に来いと言われた。

詩葵は朝から翠の買い物に荷物持ちとして参加していると置手紙に書かれてあった。
そう言えばそうだったなぁとこの時俺の誕生日だと気付いたのはご愛嬌という事で気にしないで欲しい。

目が覚めたのは12時すぎ。
あと1時間弱は自由にしていていいという事だ。
本当はもう少し寝ていたいが今寝たら絶対に遅刻する。

それならばと適当にコートを羽織り外へ出る。
冷たい風が頬を刺激し、寝起きのぼやけた思考がいっきに覚醒する。
息を手袋などなく悴んでいる指先に吹きかけると一瞬温かくなった気分に陥るけれどそれもただの瞞しだ。

あの日見たあの美しい花々と月の映る湖を思い出すと同時に暗くてあまりよく見えなかった彼の人を思い出す。
お礼を言いたいので移動教室で他学年の階に行くときなど注意深く見ているが未だに発見していない。
尤も、彼はもう俺と出会ったことも忘れているのだろうけど。

呆けているといつのまにか雑木林の入口に立っていた。

「・・・どう行けばいいんだ」

辺りは暗かったし歩いている時に周りを見てたけど目印になるモノなんかなかったと思う。
それにあの場所はちゃんとした道ではなくて本当に木々の隙間を潜り抜けながらだった。

それに結構な時間を歩いていたのだ。
目的地の場所さえ分からず散策しても時間の無駄であろう。
もしこの前の様に辿りつけたとしても帰れない確率の方が高いだろう。

「・・・・・・・・・」

諦めて溜息をつく。
ちゃんとした道を今日は歩こう。
どちらにしろ時間は40分程しかないのだからと歩き出す。
この先には生徒の憩いの場となる様にベンチやら緑の絨毯なる芝生がある。
そこで昼寝でも・・・と考えてこの後の予定があるんだよとこんな歳でボケ始めたかと頭を抱える。

歩みを進めて5分ほどするとあたりが開けてくる。
あの湖だったらいいのになと考えてしまう自分に苦笑する。
どれだけあの場所を気に入ったんだろう。
例の吸血種の先輩に会いたいのはただ単にお礼を言いたいだけじゃなくあそこまでの道を知りたいからかもしれない。

近くにあったベンチに腰かけると冷たい風がふき葉が揺られる。
背の高い木のおかげでそこまで刺す様な冷気に当てられることはなかったけれどやっぱり寒い。
運動しようかと思うけれどただでさえ飯の前でお腹が減っているから嫌だ。

最終的に部屋で大人しくしていればよかったなんて言う結論に至って苦笑する。
まぁとにかく部屋に戻ろうという事で立ち上がる。
この前買ってきた漫画でも読んでればいい時間になるよなぁとか考えながら。

「よっこらせっと」

気分的にそんな掛け声をしたくなって本当に歳かと苦笑。
勢いよく立ち上がり歩いてきた道へと回れ右すると風の冷たさじゃない、寒さが突然身を包む。
ゆっくりと振り向くけれどそこには誰の姿もない。
全身を苛む悪寒が怖くて掌を固く握りしめる。
寒さで感覚が無くなりかけているけれどそれすらも吹き飛ばす様に爪を立てて。

知らず知らずのうちに詰めていた息を吐きだして、早く立ち去ろうと足を動かし始めた。




「こんにちわ、後輩君」

そろそろ寮の姿が見えると言うところで唐突に聞こえる声。
後ろから聞こえたという事はこの妙な悪寒の原因となる人であろうか。
先程よりも寒さが一層ひどくなり体が痙攣を起こしたように震えはじめる。

「こ、んにちわ・・・先輩さん」

それでもなんとか返事をする。
いぜんとして声の主に背を向けてはいるのだけれども。

「こんな寒い日に外に出るなんてどうしたの?てか、こっち向いたら?」

「・・・・・ちょっとした散歩ですよ」

危害を加えられたわけでは無いのだからと一息ついて体の向きを変える。
すると、そこには青い瞳をした白い肌の外国人がたっていた。



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