12

「貴方は、吸血種ですか?」

もう自分ではどうしようもないから目の前の男が吸血種であるようにと祈りながら聞く。
散々無視してきたが結局は呼びかけに答えてくれるような人だから渋りながらも俺を抱えて森から抜け出してくれるだろう。

他人任せというのは素晴らしい。
まぁ、それもこれも相手が吸血種という仮定が正解であると証明されるまで不安なのだが。

「・・・ああ」

それは良かった。
これで帰りはもう安全だ、素晴らしい。

安心安心と花を避けて芝生に寝転がる。
彼の近くまで来ていたので視線は彼が座る木の上。
それでも暗闇に混ざって彼の姿は見えない、わからない。
きっと彼自身も黒い服を着ているんだろうなぁと姿の分からない彼を想像してみる。

眠くなってきて瞳を閉じる。
閉じるけれども夜風の独特な寒気が睡魔を追い払っていく。
もう早く帰りたいなぁ、無駄に豪華なあの柔らかいベットで眠りたい。

それでも彼が動くまでは帰れないのが悲しい事実である。
携帯で時刻を確認すると既に時刻は21時となっている。

23時までに寮に戻らなくてはいけない。
夜中は魔物の活動時間であり、ちょっとやばい感じの例の強姦魔の吸血種の活動時間でもある。
その防止策としてそのような校則があるのである。

せいぜいあと一時間はゆっくりしていてもいいがあまり遅くなると面倒だ。
詩葵もそろそろ部屋に戻ってくるはずだから俺が居ないことを不審に思う筈だ。

「あのー、そろそろ帰りたいんですが」

「だからどうした」

「寮までの案内をお願いします」

「面倒だ」

「そこをなんとか」

「・・・・・」

そこで無視の攻撃が来るか、コノ野郎。
ムカつくけれど相手が一人で帰ってしまう方がもっとやばい事態に陥るので堪える。


何回も何回もお願いすると相手は溜息をついて一言。

「・・・・・行くぞ」

「はい」

すると目の前に長身の男が飛び降りてきた。
長い脚で衝撃に耐え、踏んでしまった花を興味なさげに一瞥し此方を見る。
しかし俺を見たのは一瞬で、すぐに正面を向くと暗い木々の方へ向かっていく。

置いて行かれない様にそのすぐ後に続いた。

彼は木の上から帰り道を見つけたのであろう。
先程真面目な顔で帰り道が分からないと言ったけれど進む足に迷いはなく歩き続ける。

歩くのが早い彼の後ろを追いかけるのは大変だ。
けれどもあの場所についてから押し問答をしながら休憩していたので行きの疲れはもうない。

帰りは彼の早足のおかげ?で早く寮に着いた。
お礼を言おうと振り向いたけれど、そこには誰も居なくなっていた。

かわりとでも言うように空には無数の鴉が飛び立っており、暫し空を眺めた後に建物の中へと足を進めた。


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