11

上を向くと木の枝に座り、足を組んでいる人物が見えた。
光のせいで顔はよく見えないけれどもそれでも変な人じゃなさそうだから良かったと一安心。

「えっと・・・」

「だから、お前は誰だ?」

「俺は一年の桜月透ですけど」

「・・・・・・」

折角自己紹介したというのに何故かだんまりな相手。
こうして普通に話すことができるあたり危険な人ではなさそうだけれども変な人。
その後も適当に声をかけては見たけれど全部無視された。

先程まで異様に此処に来たがっていた本能は静まり、だからと言って20分程かけてきたのにすぐ帰るのは癪だ。
今ならばもう足は勝手に動かないし精神は穏やかだしさっさと帰ってもいい。

それでも今度は自分自身で帰りたくないと思ってしまう。
この男が居るのが不安というかちょっと怖いところだがせっかくこんな綺麗な場所を見つけたのだ。
随分と複雑な道を歩いてきたし、というかそれ以前に歩いてきたのは道じゃなかった。
大木の隙間を潜り抜けながら歩いていたら辿り着いただけだ。

それはその、帰り道が分からないという悲しい事実も示していて。
現在頼りになるのは木の上で欠伸をしている男ただ一人。
あの男は時々立ち上がって遠くの方を見るけれどすぐに座って考え込むようにしている。
先程無視されたという事もあり、また話しかけても無視されることもある。
そしてもっと言えば俺を此処に一人残してさっさと帰ってしまう可能性もあるという事だ。

「・・・・・・・」

どうすればいい。
いや、どうするもこうするも自分が生き残るためにはこの男に助けてもらわねばならないのだが。

いざ声を掛けようと思ってもどう声を掛ければいいかわからない。
普通に帰り道が分かりませんと言っても何故こんな夜中に分からない道を歩いてきたかという疑問が生まれる。
その疑問が相手に生まれてしまった場合確実に俺が不審者だ。

考えてみても、というか考えれば考えるほど自分が不審者だ。
何を言えば相手に安心してもらえるかは分からないけど、とりあえず寮のカードとかは持ってきているから大丈夫だと思う。
というかさっき名前もちゃんと言ったから、こんなに堂々とした不法侵入者も居ないと思うだろうし。
まぁ、もしかしたら相手が悪い人でワザと俺がこの学園の生徒だとわかっても老いてかれるかもしれないけど。


「・・・・あのっ!!」

結局考えてみたら悩んでも仕方がないと言う結論しか出なかった。
出なかったのでとりあえず行動してみようという短絡的な結果へと繋がった。
花々を傷つけない様に移動しながら彼の座る木の下まで行くと声をかける。
それに悲しい予想通りに無視されてそれでもめげずに何回も何回も声をかけ続ける。


「すいませーん、聞いてますかー?」

「・・・・・・」

「お願いだから返事を宜しくお願いします」

「・・・・・・」

「やっぱり無視ですか!!」

「・・・・うるさい」

「あ、やった」

やっと成立した?言葉のキャッチボールにテンションちょっと上昇。
それでも返事はうるさいだったので確実に煙たがれているんだろうけれども。

「すいません、俺迷子なんですけど・・・どうか寮まで案内してくれませんか?」

「・・・・・寮までの道は、俺もわからない」

こんな夜中に冗談言うなと言いたいけれど相手の冗談など一切ないという声音。
というかこの人が木の上に座っていたのも、時々立ち上がって遠くを見ていたのも寮までの道を確認していたのだろうか。

「ってことは今俺ら二人共迷子って状況ですかね」

「そうなるな」

そんなに冷静でいるなよと言いたいが先程呑気にも欠伸をしていたのを思い出す。
もしかしたらこの人は吸血種かもしれない。
超人的な身体能力もあるし真の姿とやらになれば翼も生えるらしい。
だからいざとなればその翼で上空に上がりすぐに寮を見つけられて瞬時に帰れるのだろう。
まったくもって羨ましいものだ。


[ 13/120 ]

[前へ 目次 次へ]
しおり

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -