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ぼんやりとした視界。
ゆっくり目を開けると映るのは毎朝見ている天井。
体を起こして未だに霞のかかる頭をそのままに、とりあえず時間を確認しようとサイドテーブルにある時計を見る。

どうやら何時の間にか19時となっていたようだ。
食堂は21時に閉まるのでまだまだ大丈夫だけれどもこの時間帯は一番人が集まりやすい。
正樹たちが居ればまだいいけれども休日は買い物に行くなど以外あまり共には過ごさない。
それは勿論あのバカップルへの配慮という名のうざいから近寄リたくないというただのこちらの思惑だ。
正樹は基本休日は部屋に籠ってゲームだのなんだのして寝てるか外へ出るかだ。
ご飯はきちんと食べるだろうが食堂には行かないらしい。
電車で30分程のところにある街へ出てそこら辺に居る野郎と騒いでいるらしい。

「今日は、自分で作るか・・・」

寮内にある消灯時間である12時まで営業しているスーパーに行って買い物をしよう。
眠い体になんとか力を入れて立ち上がる。
寝起きなのでちょっとふらついたけれどもベッドに座ってちょっとして立ったら大丈夫だった。

顔を洗って適当に着替えて椅子に掛けてあるカーディガンを羽織ってカードと携帯をポケットに突っこんで外へ出る。
自動で鍵がかかるので振り返らずにスーパーまで歩き進めた。


「・・・これと、これ。後は、―――」

必要な食材を全て籠へ入れてレジへと向かう。
お支払いはカードで済むから本当に便利なものだ。

食材が詰められた袋を持ってスーパーから出る。
そっと上を向いてみると満月にあと数日でなりそうなお月様。
ちなみに俺の誕生日は11月3日。
毎年飽きもせずにプレゼントを買ってきてくれて翠の料理が振る舞われる。
それは他の奴等の誕生日も同じだ。他の奴等の時には勿論俺も料理を翠と一緒に作るのだけれども。

夜の独特な雰囲気にしんみりとしたけれどやはりこの季節ともなるととても冷える。
掌が冷たくなってきたので袋をもう一度力を入れて握り直すと歩き始めた。

そのまま歩いていると寮から外の雑木林へと続く道まで来た。
何故か散歩に出かけたくなったけれどもう遅いし腹も減っているから小さな衝動を押し殺した。


部屋へ入り一息。
一人なので適当に作って食べてまったり。
なのが普通だが食べ終わっても和やかにテレビを見たりなどする気も起きなかった。

外へ、行きたい。
行かなければいけない。

気が付けば時刻は8時を過ぎている。

仕方ない、テストは終わったけれど本でも読もうと心を落ち着かせるために本を探すと例の古びた表紙の本を手に取る。
そういえばまだ返していなかった。
返却期限はたぶん来週あたりだと思うけれどもう読み終わったのだから返さなくてはいけない。

表紙を見つめていると何故か外へ、あの雑木林へと無性に行きたくなって仕方がない。
こんな時間に外へ出るだなんて例の強姦などしている生徒に自分から捕まりに行くようなものだ。

落ち着かせようと思って手に取ったものだがむしろ落ち着かなくなって。
こんなもやもやする想いを胸の内に抱えているという事自体が面倒臭くなってもうどうにでもなれと先程のカーディガンを羽織った。




外へ出るとやはり寒くてもっと厚めのコートが良かったなぁと今更ながらに後悔。
それでも足は雑木林へと向かう為に忙しなく動き続けている。

雑木林の入口へ着く。
此処から先はもう時間的にも真っ暗で、わざわざ散歩するだなんて正気の沙汰とは思えない。
理性はそう訴えているのに本能が行けと訴えているというかなんというか。

そっと、枯葉を踏みしめガサッという音が立つ。
一応道らしきものはあるし月明かりもある。携帯も持ってきた。

帰らなきゃと、この道を進んでもあるのはただの木だけだと訴えるのに体はいう事を聞いてくれない。
それでも次第に考えることを放棄してここまで来てしまったのだから仕方がないとついには道を外れてしまったことにも動揺しない。
意外と肝は据わっているので女の子の様に可愛らしくおびえたりなどはしない。


そして20分程歩いたのではないかと思ったところで月明かりに揺れる水面を発見した。
其処まで来るとまるで操られたかのように動いていた足も止まった。

結構長らく歩いていたので足が少し痛い。
というかこの雑木林の中に湖があったことなど知らなかった。
そして不思議なことに湖の周辺はまるで春の様に色とりどりの美しい花が咲いている。

「・・・・・此処は、」

「誰だっ!!」

目の前の光景に喉から零れ落ちたようなつぶやきの直後、誰かの鋭い声が聞こえる。
その低い周囲を威圧するような声音に体が震えた。

俺はこの学園の生徒で決して怪しいものじゃないと伝えたいのに。
喉が凍りついたように声が出ない上、先程の声の主が見当たらないのだ。

口を小さく開けながら、必死に声を絞り出そうと開閉する。
そんな俺の状況に流石に哀れだと思ったのか先程の声が上空からもう一度聞こえた。

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