22

その後のクレメンスさんの事情聴取も穏便に終わる。
荒事にならなかったのが本当によかった。
これだけで肩の荷が大分おりたって感じだ。

「…部屋に戻るぞ」

「うん」

腰を抱かれて事情聴取が行われていた部屋から出る。
前からエスコートのようなことはされていたから不自然なことではない、でもやっぱり少しだけ逃がさないぞって言ってるようにも感じてしまう。

これでも結構覚悟を決めていたというのに部屋に戻るとすぐに寝るように言われた。
体調を気遣われてるってのはわかるんだけど、眠りすぎたし全く眠くない。

「体調が悪いわけじゃないし、大丈夫だって」

「でも、あの日無理やり…」

「うん。多分それで数日眠ってたんだと思うけど、起きたから大丈夫ってことだと思う」

それよりも、話をしようと告げる。
あの日俺が拒否した。
だけど再び決心したのだ。

フラフラして、色んな人に迷惑をかけた。
リカルドを泣かせてしまったし、紅ともこうして気まずいことになってしまった。

言い訳をするのならば、吸血種でもないただの人間がこんな事態になってもうわけがわからなくなっていたのだ。
日常から離れて命の危機的な状況が起こり、人間に対する悪意に触れて。

しかも体を許した相手に、初めて抱かれた日にあんな瞳で見られて。
それで紅に対して諦めとかのが大きくなって、素直になることが出来なかった。

「紅は、俺が花嫁でよかった?」

「ああ」

「俺はね、普通の人間だよ。急に王だから契約しろって言われて心底戸惑った」

だから仕方ないやって諦めて、紅をまっすぐに見つめることを放棄していたのかもしれない。
一緒に暮らして紅のいいところとか色々と見てきたけれど、最初に諦めが入っていたから少し歪曲した見方をしていた。

「でも案外紅は優しいしいい人だし、どうせ紅以外選べないんだし諦めて好きになろうと思った」

きっとこれが最初。
俺はとても臆病な人間だったのだ。

最初に諦めとか仕方ないからって言い訳しとけば好きになって貰えなくてもまだ耐えられる。
先に惚れたほうが負けとか言うけれど、その状況になりたくなかった。

優しいのもすべて、花嫁だから。
紅も唯一だから諦めて俺を迎え入れているんだろうって。
だけどその唯一が崩れたから、心が揺れた。

「急に不自由になって、疲れちゃってたのかな」

結局自由に人を好きになることは出来ないけれど、それでも選択肢は出来た。
現状に対する細やかな反抗だったのかもしれない。

捻くれた気持ちのまま紅と向き合っていたから、新たな選択肢が妙に眩しく見えて。
そしてそんな気持ちのせいで紅に酷いことを言ってしまった。

「…ねぇ、本当に紅は俺でいいの?」

やっぱりまだ弱虫で、臆病だから。
紅からの言葉が欲しい。

リカルドに想いを告げられた時は戸惑いが多くて、そしてすぐにこの人じゃないってわかった。
それに出会った時から好きになれるかも、なんて曖昧なままで言葉が欲しいとか想いが欲しいとかそんなこと考えてなかった。

だけど、今はこんなにも紅からの言葉が欲しい。
それだけで心が定まるから。

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