ノックを二回。
返事を聞いて、深呼吸をしてからドアノブに触れる。
ここが正念場だ。
なんとか一致団結して敵を倒すことが出来れば。
きっと穏やかな気持ちで彼だけを見ることが出来るから。
「失礼します」
「愛子よ、体調はよろしいのか?」
「はい。大丈夫です」
黒羽さんにまず声をかけられて、聞き慣れた声に少しだけ安堵。
だけど腕を縛られて床に座っているリカルドが居ることを考えれば、そんな気持ちより不安や焦燥が溢れてくる。
「黒羽さん、リカルドは…!!」
「主が信頼しているのは知っている。我等も見極めさせて貰っているだけだ」
そう言われれば黙るしかない。
俺は何度も会っているし会話もして信用したけど、黒羽さん達は戦ってた相手なんだから。
ここでは俺も冷静に客観的にならなければいけない。
そういった存在なのだと、自覚していくのだ。
「あ、クレメンスさんはどうしたんですか?」
「アイツは後だ。部屋で大人しくして貰っている」
「…そうなんだ」
不機嫌そうな紅の声。
横にみつけた空間に、あそこが俺の定位置だとようやく座る。
昨夜…いや、数日前の夜のことを思い出すけれどそれは今でなくていい。
恐ろしかった記憶があるからか、この程度の不機嫌さだとむしろ紅だ…みたいな、懐かしむような感情が沸き上がる。
眠り続けていたことによって心が整理されたのだろうか。
「まぁ、概ね話は聞いた。今のところ敵ではないと言って良いのではないか?」
「うむ。監視は当然つけるがな」
と、黒羽さん達のお話はどうやら終盤だったらしい。
そしてリカルドを敵とはみなさないだけでもホッとできた。
「この男はとりあえず休ませようぞ」
どうやら数時間前に着いてずっとこの状態だったらしい。
胸は痛むが、俺を守るために黒羽さん達がしていると思えば仕方がない。
縄が解かれて立ち上がったリカルドがこちらへ近づいてくる。
緊張感が溢れるその部屋で、俺に向かってリカルドは言ったんだ。
「お前の王は、そいつなんだな」
「…うん」
一度会ったことあるでしょって、茶化そうかと思ったけど無理だった。
そんな度胸あるわけないし、リカルドの花嫁にはなれないとあの時言ったのだから。
ここではっきりとさせないといけないのだ。
「俺の王は紅だけだ」