20

少しだけ浮上した意識は、まだ眠っていたいというように曖昧に途切れ途切れで。
もう少しだけいいかなと緩んだ思考は自分から意識を手放そうとしていく。
しかしその前に大きな声が聞こえた。

「透様!!目を覚まされたのですか!?」

「…?」

まだぼやけている視界では相手が誰だかはっきりしなくても声でわかる。
そして次第に若狭さんの心配そうな顔見えてきた。

「あれ…?今何時ですか?」

「透様がお帰りになられた日から二日後の20時でございます」

「…え?嘘、ずっと眠ってたってこと?」

「はい、そうなりますね」

疲労が溜まっていたにしても寝すぎな気がする。
身体がおかしくなってしまったのかと疑問を抱き、考えればあの夜の、ことを。

「紅は…!?」

「紅様は今、その…」

「何があったんですか?教えて…」

「リカルドという男と黒羽様方とお話をされています」

身体から力が抜ける。
リカルドが来てくれた。
本当に父親ではなく俺のもとへきてくれた。

多分、子供がお気に入りの玩具を独占するかのような気持ち。
愛ではないけれど大切な人となった彼が味方になってくれたのが本当に嬉しくて。

「あ、何か変なことされてたり…!?」

「申し訳ありません、私は客間に入った後の事を知らないのです」

「いや、ありがとうございます。俺も行きたいから案内してくれますか?」

「その前にお食事を」

強い視線でそう言われてしまえば仕方がない。
実際起き上がっただけで眩暈がしたし、ちょっと危ない。
肉体が不安定だと心も余裕が無くなってしまうからまず落ち着かなければ。

食事を用意してくれている合間にシャワーを浴びてスッキリしたら思考も落ち着いてきた。
俺はもう紅の花嫁になると決めた。
リカルドの優しさを言い訳に使って、それでも定めたのだ。

人を滅ぼすという危険な思想の人達を止めるためには王の力が必要。
それを手に入れる器は紅で、それを力で満たせるのは俺だけ。
俺が心を定めなければ何も始まらない。

共に暮らしたあの日々で紅を知った。
紅を知って、彼だからこそ体を許した。
そこに諦めが含まれていたとしても紛れもない事実だから。

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