あの後、結局リカルド達はまだこなかった。
クレメンスさんと共に行った黒羽さんからは連絡が来たというので、とりあえずは安心だけど。
リカルドのお父さんがつけたという監視。
そんなのにずっと側にいられるなんてストレスが相当かかりそうだ。
まぁ、なんといっても結局は不安だから早く来て欲しい。
味方になるって言ってくれたあの言葉を信じているから。
クレメンスさんにもまだまだ聞きたいことはあるし、どうかできるだけ早く。
先程から同じことしか考えられなくて、夕飯も残してしまった。
若狭さんに心配をかけてしまって心苦しいけれど、今は食事も喉を通らないという状態だ。
それに紅とのこともある。
今は部屋に居ないけれどもう寝る時間なのだからかならず戻ってくる筈だ。
怖いいうよりは不安といったほうがいいのか、手が緊張で震えてる。
とりあえずリカルド達は黒羽さんに任せて、紅には、どう、しよう。
本当に何にも考えられない。
心底から選ばないと、愛さないと力が与えられないというのはもう紅も知ってしまった。
だとしたら口だけだとばれてしまう。
いやばれてしまうって。
元々要領が良くないのだ。
いつも面倒になって投げ出したり、一つに絞ってから考えるようにしていた。
だけど今は全てが最重要事項でどれも同時に進めなければいけない。
ただただ単純に容量オーバー。
少しだけでも脳を休ませてスッキリさせねば知恵熱でも出てしまいそうだ。
もう寝るしかないなと決めたところで、明かりを消してベッドに体を沈める。
本当に柔らかくて気持ちいい、そして一人じゃ広すぎだった。
やはり疲れですぐに意識が遠のいていく。
まだぎりぎり、か細いながらもあった意識が音を拾う。
けれど兎に角眠くて意識が、
「いっ、あ、やだ・・・!」
途切れる前、無理矢理に起こされた脳は状況を理解出来ていない。
それよりも首筋に、牙があたって、
「やめ、・・・っ、」
暗闇の中、恐怖は倍増。
相手の荒い呼吸音しかわからない。
誰だ、誰が、
疲れた体に、さらに血液まで持ってかれて意識が朦朧としてくる。
先程までの睡眠前の心地よい感じとは違って、それはあんまりにも無理矢理で。
体を押さえられてることもそうだが、力が入らないせいで抵抗も出来ない。
このまま血液を全て吸われて死んでしまうのだろうか。
まだなにも出来ていないのに。
上手く自分をコントロール出来なくなって涙が溢れてくる。
怖くて、悲しくて、どうしようもない感情が胸の中を荒れ狂うのだ。
でもそれよりももう意識のほうがやばい。
本当にこれはダメかも、覚悟を決めそうになった時、唐突に牙が抜かれた。
「った、い・・・はっ、あ」
力が入らなくてランプのボタンを押すことも難しい。
それでも呼吸を整えて精一杯力を振り絞って指を伸ばした。
「・・・こ、う?」
「はぁ、はぁ、は・・・」
さっきから荒い呼吸を繰り返していると思ったけど、こんな、どうして。
だが紅の過呼吸は次第に治まっていき、視線が交わった。
「紅、どうしたの・・・?」
「・・・透」
名前を呼ばれて小さく頷く。
今は頭を動かすのさえ辛くて仕方ない。
思わず顔を顰めると紅は顔を歪める。
何が何だかわからなすぎて、そして体も心も疲弊して、言いたいことがあるのに意識が失われていく。
最後まで見つめ続けた紅の表情からは何もわからなかった。