周りをがっちりと囲まれながらの帰還は、どうやら多くの人が喜んでくれた。
若狭さんとか、今迄沢山お世話してくれた人に久しぶりに会えたことは当然俺も嬉しい。
その中に、紅がいなかったけれど。
またもや囲まれたまま以前生活していた部屋、すなわち紅の部屋に移動する。
本来はこのまま話し合いをした方が良いのだろうけれど、心身共に疲れがたまっていたらしく、寝てしまった。
はっとして目が覚めれば、2時間程しかたっていなかったけど、随分と暗くなっていた。
此処は紅の部屋なのに、紅もまだ帰ってきていない。
会うのは少し怖いから、いいのかもしれないけど。
とか考えちゃうんだよね。
また俺の世話係をしてくれるらしい若狭さんに目覚めたことを告げ、黒羽さん達が待機してる場所へ向かう。
そうだ、それにリカルドやクレメンスさんはまだ来ていないのかな。
行けばわかると、不謹慎ながらテンションが上がってしまった。
「失礼しま、す・・・」
「愛子よ、気分はどうだ」
「あ、大丈夫、です」
所々つっかえながら返事をして、そこに座るべきと言うように空いていたところに座る。
隣にある温もりが、知ってる彼の体温が。
「・・・・・・・」
「あ、・・・何から話せばいいですか?」
沈黙を貫く紅とどうしても一部分が触れてしまう広さのソファーが、俺の緊張を更にあげる。
隣を意識せずに、黒羽さんに目を向けて若干の現実逃避。
黒羽さん達が何を思っているのかは、仮面があったからわかるはずもなかった。
「リカルドとやらは味方の言ったな。真か?」
「っ、リカルド!本当に味方です。リカルドは父親の言いなりになってるだけで、何にも悪くない」
「証拠は?」
「ない、けど・・・本当に味方だから」
どうか無事でいて欲しい。
リカルドは味方だ。
綺麗すぎる涙を見た。
あの涙は本物だ。
リカルドの泣き顔を思い出すと、今でも心臓が締め付けられる。
悲しいと嘆いたその言葉で、一生のこる傷跡を確かにつけられたのだ。
「では、クレメンスと言うものは?」
「クレメンスさんは真実を知っている人です」
「・・・味方か?」
「味方です。彼は花嫁と王の味方だから」
多分、クレメンスさんは仕える人としてはリカルドを気に入ってるのだと思う。
けれど彼はあくまでも予言者の意志を継ぐ者で、花嫁に知識を与える役目だと言っていた。
それに、リカルドが王になれないと知ったらすぐに黒羽さんとこいってさ。
あんなにも真っ直ぐに、本物の王に行くのが当然だと言い切った。
俺、紅、リカルド。
きっとクレメンスさんにとって王と花嫁という存在が大事であって、俺らは二の次だ。
それは彼の役目とかも併せて考えれば、当然のことなのかもしれないけど。
まぁ、だからこそ絶対に味方だと言い切れる。
「そうか。ならば元老院も知らぬ知識を持っているやもしれぬな」
「そうです。だから、リカルド達は?」
まだ来てくれないの?
不安で思わず口に出すと、今迄意識して無視していた隣の存在が急に気になりだして。
俺は何のためにここに戻ってきたんだ。
益々強まる隣の刺々しいオーラに息を呑むしかなかった。