17

黒羽さんの連れられ薄暗い道を進んでいく。
恐ろしい程に静かなこの空間では、足音が異常に大きく聞こえてしまう。
それは見つかるかもしれないという緊張や恐怖にも繋がって、何もないところで転びそうになった。

黒羽さんが現れ、逃走ルートについて簡単に説明をされる。
その後はもうすぐに脱出の開始だ。

こうした屋敷は隠 秘密の通路などがあるのでそれを利用している。
それは屋敷の当主とか偉い人ぐらいしか知らないことが多いので、俺が居ないことに気づいてもすぐには発見されないだろうという魂胆もあるとのことだ。

あとそもそも今日を選んだのはリカルドのお父さんが外出しているから。
リカルドも最初は疑われていたので、屋敷に居ても俺の部屋から離れたところにいると確証を得てから侵入してきたらしい。

こういった様に色々と考えて動いてくれたのは本当に感謝している。
あのままあの屋敷に居たら、何かさせられるかもしれない、危害も加えられるかもしれない、そういった恐怖で押しつぶされてたかもしれないから。

だけど、正直に紅と会うのが怖い。
そしてリカルドがついてきてくれなかったらと考えると、もう誰も信用できそうにない。

リカルドはある意味、空っぽだったから説得に応じてくれた。
そしてこんな俺を好きになってくれて、友達にもなってくれる。

それを心の支えに今進み続けているのだし。
しかもクレメンスさんもリカルドを連れてく為に離れている。
正しい事を教えてくれたのは彼だけなのに。

どうか、本当にこれで全てが終わって欲しい。
全て良いように収まって、くれれば。

そう考えていると、外の光りが見えて。
最近は窓の外からしか眺めることのできなかった自然の光りに目が眩む。

「愛子よ、あとは車に乗り込むだけだ」

「はい」

「外に出る。なるべく音を立てないようにな」

落ち葉などの音が鳴る障害物を出来るだけ避けて進んでいけば、小さな車体が見つかった。
目立たないようにこういうのを選んだのだろうけど、黒羽さん達はどうするのかな?

「当然車内には黒羽の者もいる。周囲の警戒の為に我らは別で進む」

どういった風にするのかはわからないけれど、兎に角おれの安全を考えてくれている。
だから出来るだけ邪魔しないようにさっさと車に乗り込む。

静かに走り始めた車、その中はまだ安堵に包まれることもなくピリピリとした緊張感で溢れていた。
俺はただ口を噤んで紅に会う時のことを考えることにする。
心臓が鼓動を強く速く刻んでいるのが、嫌でもわかった。


道中、謎の轟音や発砲音などが聞こえる。
だけどこの車には決して近づかせないようにしてくれているのか、遠くの方から聞こえてくるだけ。
何故だかこの状況が急に不自然に思えてきて、いつ間にか作った拳を握りしめた。

そんな複雑な心境を抱えていても、車は進んでいく。
あっとい思う間もなく、神咲家の大きすぎる門を潜り抜けていた。

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