移動中の車の中で寝てしまったのか、目が覚めた時は豪勢な部屋の中心にある、大きなベッドの上だった。
中心に一人、紅の腕枕などあるはずもなく。
のっそりと怠い身体をなんとか動かしてみる。
今回、ここは客室なのかはたまた軟禁場所なのか。
リカルドやクレメンスさんのことは信頼している、けれどリジアドル家は正体不明で信用など出来る筈もない。
これまた大きな扉のドアノブに手をかけると、案の定外から鍵が閉められていた。
「・・・俺、本当に、」
リカルドを選んだのかなぁ?
例えこれが運命に翻弄され、俺本来の意思では無かったとして。
もう、王はリカルドと定められたのだろう。
そうでなければあの光は、なんと言えばいいのかわからない。
紅を敵だと定め、リカルドを守った。
無意識の行動であるが故に、意気地なしの俺の真実ともいえる。
死んでしまいたいなんて馬鹿なことを思ってしまった、あの時の俺が立場も全てを忘れてリカルドを守った。
「・・・・好き」
「それは、誰に向けてだ」
小さく呟く独り言。
それに、いきなり威圧感たっぷりの低い声が問いかけてくる。
驚いて扉のほうを見ると、スーツを着た体格の良い男性が居た。
唐突すぎて言葉を失っていると、再度問いかけてきて。
なんて、言えばいいのか。
「・・・リカルドのことです」
わからないから、誤魔化すように俺が定めてしまった王の名前を告げた。
「その言葉を信じよう」
睨めつけるような鋭い視線は変わらないものの、その雰囲気は少し柔らかくなって、強張っていた身体から力が抜けていく。
「俺はリジアドル家の当主。リカルドの父だ。花嫁、リカルドの花嫁よ、歓迎しよう」
「桜月透です。よろしく、おねがいします」
「うむ。さて、お前はこのリジアドル家の花嫁となりリカルドを王と定めた。ならば、暫くの間ここに籠ってもらおう。王の力で、人を滅ぼしてくるのでな」
「・・・は?」
「お前はリジアドル家のものとなった花嫁だ」
「いや、あの!」
「なに、数日で全てが終わる」
なにを、この人は言っている・・・?
人を滅ぼしてどうする気だ、なんでそんなことのために力を使う?
問いかける前に、その背は扉を潜り抜け。
姿が隠れたと同時に、鍵を閉める音がいやに大きく響いた。