光が溢れる。
眩くて、クラクラする。
そして妙な程暖かった。
それから、紅。
目を大きく見開いて、その唇が動いて。
「・・・なんで、」
なんでって、俺が言いたい。
光の根源は俺なようで、胸元から光が放たれている。
それは紅からリカルドを守る様に。
俺は、選んだのか。
土壇場になって俺の中の花嫁としての何かが目覚めた。
それはリカルドを選び、謎だった花嫁の絶対防御の力を使えた。
直前まで死にたい、なんてアホなこと考えていたくせに。
力が目覚めればこうもあっさりと王は定められる。
それならこんなにも振り回さないでほしかった。
こんなに傷ついた紅の顔を見たくなかった。
手を伸ばしていいのだろうか。
他の者を王と選んだこの俺を。
リカルドよりは遥かに長い時を共に過ごした。
キスをして、身体を重ねた。
その逞しい腕の中に確かに安心を覚えた。
一緒に過ごして紅の好みがわかって、心底嬉しかった。
紛れもない真実がそこにはある。
だけど、俺は、選んだのだ。
リカルドを。
何かを言葉にしようと、凡庸な頭を必死に回転させて、口を動かす。
俺は確かに声を持っている筈だったのに、喉から音すらも出てこなかった。
「・・・・そう、か」
名前ぐらい呼べると思ったのに。
声帯が締め付けられたかのように、俺は、何も。
背を向ける紅に手を伸ばすことはできたのに。
手は届かず、やはり言葉も出ず。
去っていくその背を見たくなくて、ぎゅっと目を瞑った。
瓦礫を踏みしめる音がする。
散々に破壊されたそこを歩くのは辛いだろうに、足音はまっすぐと。
「クレメンスさん、」
「とりあえずリジアドル家所有の別荘へ移動することになったから」
行くよ、と言われて首を縦に振る。
リカルドに背を押されるようにして歩いていく。
乗り込んだ車の中、リカルドは何も言わない。
運転するクリウスと助手席に座るクレメンスさんはカーテンがあって見えない。
二人だけがここにいるようで、少し物悲しい。
俺から何かを言ってみようか。
いったい、何が言えるのだろうか?