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「このまま紅と居ても、紅のこと好きになれないと思ったんだ」

少しだけ迷って、ようやく口から出てきた言葉は紅を傷つけるものだった。
その瞳は驚きに見開かれ、紅の周りだけ時が止まったかのようで。
でもこれが本当なんだよなぁ、と小さな罪悪感を覚えながらも、続きを話すためにもう一度口を開いた。



ーーーリカルドと会うまで、紅のこと受け入れたつもりだった。
その、身体を許したのも紅ならいいって思ったし、これから紅と生きてくんだって本当に信じてた。

でも、それって紅の事を全て信じて愛して、王として認めたってわけではなかったみたい。
この花嫁の与える力ってのはもっともっと強いもので、認めてればリカルドと会っても、既にリカルドから王の資格は無くなってた筈だ。
でも、こうして資格は失われていない。

つまり、その・・・。
紅のこと愛せなかった。

それで、リカルドのとこに自分から行ったことについてなんだけど。
さっきも、知りたかったって言ったよね。
花嫁と王の伝承に詳しい人が此処にいて、その人に話を聞きたかった。

前攫われた時に少しだけ話しただけなのに、俺、リカルドのこと頭から離れなくて。
だから俺、紅じゃなくてリカルドなら愛せるかなって思ったのもある。
結局確かめてないし、再会しても特に何か思ったわけではないよ。

まぁでも、二人とも俺なんかに優しくしてくれるしさ。
普通に優しくしてくれる人って好きになるでしょ?
これで俺が傷心中とか失恋中だったらどっちかにコロッといったのかもしれないけど、そうゆうのもなかったし。

兎に角、まだリカルドのことも紅のことも友情?的な好きなんだよ。
あとは俺がちょっと、勇気が無いだけで。



想像以上にポロポロと溢れた言葉は、紅を酷く傷つけたのだろうか。
もしも俺の所為で紅が傷ついたのなら、彼は俺を心から愛してくれていることとなるのだろうか。

なんて、浅ましい。
何度目かの自己嫌悪に駆られて、服の裾を握りしめる。

だけど今は二人を止めるのが最優先なので、自然と俯いていた顔を上げ、

「ちょっ、何してんの!?」

「こいつさえ居なければ良かったんだろ?」

「いやどこからそうなったの!?落ち着いて紅!!」

やばいなんか地雷踏んだかもしれない。
元々怒ってはいたけど、今は全年齢禁止レベルでやばい目をしてる。

「あのままお前が俺のことを愛せなかったとしても、お前は俺の傍にいた、筈なのに」

鋭い視線がリカルドへ向けられ、まさに一発触発。
本当のことを言って、俺自身はすっきりしたけど、これじゃなんの解決にもなってない。
それどころか今まさに殺し合いが始まってしまう。

「其奴は邪魔だ」

その一言と共に、視界から二人が消える。
響く轟音、崩れる屋敷。

此処に、止めに来たのが間違いだったか。
火に油を注いでしまっただけじゃんか。

花嫁だなんだ言われても、結局俺は普通の人間だ。
何にも、出来ない。

強い肉体だからこそ怪我などに鈍いこともあるのだろう。
そういう、人間とは違う考え方や感覚があるのは仕方ない。
そんなのわかっているけれど。

あまりの己の無力さに無性に苛立つ。
そんな時、もういいや、なんて思ってしまうのが俺なわけで。

100人中100人に馬鹿と言われるだろうけど、この時はもう投げやりだった。
俺のこと取り合ってる状況、そして俺は選べない。
ならばいっそ、いっそのこと。

二人に、殺されたいと。

激しい戦闘を繰り広げる二人の元へ、全速力で走っていった。

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