ノックの音に、笑いそうになる。
ああ、嬉しいなって。
「奪いにきた」
「・・・ずっと待機してたの?」
「ああ」
「お疲れ様です」
なんて手を伸ばして、添えられるように重ねられた俺より大きな手に、少しずつ力が込められて。
手を繋いだまま扉の前まで共に歩く。
その後、簡単に抱え上げられてその首に腕を回す。
感じる温もりに安堵しながらも、やはりはやまったかな、なんて考えちゃって。
「目を瞑ってろ。・・・大丈夫」
じわぁっと滲む涙。
大丈夫って誰かに言って欲しかったのだろうか。
不安定で、どうすればいいかわからなかったから、ただその言葉だけで嬉しくなるんだよなぁ。
目を瞑って首に回した腕に力を込めていると、瞬間、風が吹き荒れ空気の冷たさと相まって皮膚が切れたかと思うほどだった。
しかし、そんなのは一瞬で次に目を開いたときにはリカルドとの屋敷についていた。
「おいクリウス、戻った」
「お帰りなさいませ。おや、愛子もご一緒でしたか」
「また部屋を用意しろ。今度は客間でいい」
「・・・承知致しました」
クリウスが俺の部屋を用意してくれる間に、俺はリカルドの部屋でお茶のようだ。
程なくして茶菓子と紅茶を持ってきてくれたクレメンスさんと目が合うと苦笑された。
何故だ、これは間違った判断だったのか。
「あの、クレメンスさん。お話を聞かせて欲しいんです」
「王と花嫁の?」
「知ってるんでしょう?」
「まぁ、ね。・・・リカルド様」
「話せ」
と、そこでクリウスが呼びに来たので一旦お開きとなった。
お預けをくらった気分で些かあり不満が残る。
しかし、クレメンスさんも夕食の準備があるらしいので邪魔してはいけない。
夕食を一緒に作れるし、まぁ良しとしようか。
「次何しますか?」
「そこの野菜切っといて下さい」
基本的に調理の場でぺちゃくちゃ喋るのは好ましくないのであくまで事務的に。
だけど個人的に懐いてるためにあれこれ喋ってしまった。
まぁ紅の屋敷にいた間は特に代わり映えのない日々を過ごしてたので特に語ることなどないのだけど。
調理が終われば少し早めの夕食。
俺の部屋となった客間には先にリカルドが待っていて、それだけで嬉しくなった。