1

何も身にまとわない姿のまま、体を起こす。
柔らかな掛布団があったから大丈夫だったものの、暖房を付けていないこの室内ではあまりにも寒くて、しっかりと身体にタオルを巻いてからいそいそとシャワールームへと向かう。

誰も居ない隣のことなど、考えたくないから。
冷たい白をなぞって、思いはせるなど悲しくて耐えられないから。

熱いお湯で目をさまし、後処理はしてくれたんだろうけれど、再度隅々まで洗っておく。
清潔な衣服を身に纏って外へ出れば挨拶してくれるメイドさん。
朝食を食べてから温室で読書タイム。

痛む腰を労わるように背中にクッションを置いてみる。
ふわふわしてるから痛みが和らいでとてもいい気分だ。

なんて、隣に控えているシアに笑いかけてみる。
本を読むだけだから一人にしてと言えば、すぐに離れていった。

とても、とても静かだ。
昨夜の熱は結局一過性のもので、消えていった熱を想うこともせずにただただ揺れる心のままに思考に沈んでいく。

自分の心が、自分のものでない。
愛とは、想いとはこんなにも重く苦しい面倒なものなのか。
何度向き合おうとしてもどうしても定まらない心はただ流されるままに。

昨夜の熱が、心底嬉しかった。
優しい言葉を貰えば喜んでしまうのは当然にしても、紅に心が動いたのは確かだった。
リカルドは俺のこと、結局どうでもいいから紅にさっと返したんだろうし、俺はここに居れば絶対に幸せになれると思う。

ああもう、リカルドってすごい。
一緒に居て話した時間は物凄く短く、すぐに離れてしまった。
そのくせになんで、こんなに存在が刻まれているのか。

あの空間を愛しいと思ったのは真実だから。
何を基準に俺は選べばいいのだろう。

なんて、俺が選べる立場であることを前提としていること自体が変だ。
この世は王と花嫁が統べるというけれど、やはり元老院は力をつけすぎている。
黒羽さんとかが一斉に来たら果たしてリカルドは無事だろうか。
それならば紅と居たほうが、焦がれるだけで、彼は無事だ。

「・・・・・・見ない、ふりか」

こんなにごちゃごちゃ考えて、結局俺は見ないふり。
そこに欠片が落ちているというのに、拾い集めることもせずに眺めるだけ。
自分の心をきちんと拾い集めて、そしてそれを抱えたまま生きていくのが辛いからか、なんなのか。

言い訳ばかりが胸中を埋め尽くす。
そこにある入れ物としての心の中は、そんな馬鹿みたいな言い訳の言葉で真っ黒に溢れている。

今は、もう少しだけ見ないふり。
そうやって、この状態をただただ過ごすだけで。

本を開いて集中してしまえばこっちのものだ。
なんて、この本の事実も心を抉るのには十分な威力があるけれど。

これは、本当に、本当なのか。
二人への想いをきちっと定められないから、先にこちら。
いずれ定めなければいけないから、今は少し遠回り。

この真実は、誰に聞けばいいだろうか。
黒羽さんは元老院お抱えのものだけど、戦闘員って感じだから違う。
ではお義父さんはどうだろうか。
はぐらかされそうな気しかしないし、まず忙しいし。

ならば、会いに行ってみようか。
この想いをはっきりさせるためにも。

行動をおこせ。
ここに居るだけではだめだから。
そんなんじゃいつまでたってもこんな中途半端な状態。

だから今度こそ。
選んでいい立場なのか、とかやっぱ考えちゃうけど。
誰かがこれが正しいと言っていたからではなく、今度はしっかりと己の身体や思考全てをつかって。
俺は、自分で選ぶよ。

「・・・奪って、リカルド」

ここから連れ出して。
紅から奪ってみせてよ。

[ 97/120 ]

[前へ 目次 次へ]
しおり

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -