あるところに一人の吸血種の青年がいました。
青年の自慢はその腕っぷしの強さでした。
彼は吸血種の血が濃いのか、生命力や物理的な強さ、そして人を惹きつける力がありました。
そのぶんヒトや他の吸血種に怖がられもしましたが、青年の優しさに絆されていきました。
青年はヒトも吸血種も大好きでした。
その腕っぷしの強さに惹かれる子も多く、青年もその強さを守るために使いました。
ある夜のことでした。
既にあたりは真っ暗でしたが、青年は友人とカフェに行きました。
この辺りは暗くなったとしても街の活気は衰えることもなく、むしろ様々な灯りで楽しく彩られるのです。
そのため、青年はよく友人たちと夕方から夜中にかけて遊びに行っていました。
今日もその、いつも通りの行動をしていただけでした。
ふいにガラスを震わせるような甲高い悲鳴が空気を切り裂くように響き渡りました。
青年は外へ飛び出してみました。
沢山の人が倒れていました。
立ち竦む青年の腕がふいに掴まれて、青年は驚いて視線を彷徨わせます。
そしてある老婆を視界に入れました。
その老婆にひかれるがままに向かった先に、暗闇の中で、木に隠れた少女がいました。
その少女に近づいた青年は、その身体と香りに驚きました。
美味しそうな香りがするのは遠くからでもわかっていたけれど、こんなに強烈なものかと。
そして、その身体に無数の噛み跡や血がでているのを視界にいれると、青年は強い怒りを抱きました。
そんな青年に、老婆が箱を差し出してきました。
その中のものは、様々な装飾品でした。
装飾品を付けろと老婆に指示された青年は少女に近づきました。
その瞬間の衝撃は、どれ程のものだったか。
青年にしかわからないのでしょう。
その時、青年は少女を愛し始めたのでした。
これは、それからのお話し。
青年が、王が花嫁を愛したかっただけの話し。