冷たいながらも、風の音や揺れる木々は好きだ。
十分に防寒して外へ出たつもりだったけれど、こんなのでは寒さなど防ぎようもない。
小さなくしゃみをするとシアに中に入るように促されたので大人しく従って入ると、すぐさま椅子に座らされて出される熱い紅茶。
こんなに甲斐甲斐しく世話されるなら、リカルドの屋敷のように閉じ込められたほうがましだ、なんて。
時々リカルドがお茶しにきてくれて、クレメンスさんと一緒に料理して、リカルドに食べてもらう、そんな生活が、いい。
紅の屋敷に戻ってから既に3日が経過しており、やはりそんな時間では彼のことを忘れることなど出来なかった。
あとどれだけで忘れられるのだろうか。
俺が彼を忘れる前に、奪いに来てくれないか。
もしも来てくれたのならば俺はその手を、
ああもうどうする気だ自分。
紅だけでなく、来てくれたなら、なんてリカルドのことも馬鹿にしてる。
行動力はなくはない、と思うけれど、まず自分の心が定まっていないために悩むことしかできずにここから動けない。
薄暗くなってきた空を眺めながら、漂う雲のようにリカルドへと流れる心を止めることが出来ない。
その上後ろめたさではなく、ただ純粋にあの日紅に抱かれた夜の思いも抱いているから、よけいにどうしようもなかった。
空を呆けながら見ていたのだが、どこかへ出かけていた紅が予定より早く帰ってきたので今日は早めに夕食だ。
二人で囲む食事の時間は穏やかで、どうでもいい雑談をしたり紅の話をきいたりしながら静かに流れていった。
部屋に早々に戻ってシャワーを済ませて柔らかいベッドに身体を預けた。
本を読むたびに少しずつ、少しずつ明かされる真実と現状に挟まれたままの精神は想像以上に疲れていたらしく、身体にまで影響しているようだ。
うつらうつらとした視界は霞始めて、瞼が重い。
もういいや、そう思って重さに抗うこともせずに閉じた瞼に、柔らかな感触がした。
その程度は起きるほどではないので、ゆっくりと意識も奪われていく。
しかし、唇を塞がれて舌が侵入してきたとなればそれどころじゃない。
はっと眼を開くと目の前には紅の笑み。
「ど、したの?・・・驚いた」
「いや、・・・なぁ」
首筋を撫でてきた紅に、そういうことかと身を預ける。
少しだけにするから、その言葉に首を縦に動かしてボタンを開けられるを抵抗せずに静かに見守る。
この瞬間の、なんというか独特な雰囲気というかこの気まずさは慣れない。
じっとしていると、牙がそっと肌に突き刺さる。
血に濡れた首筋を這う舌の感触に耐えながら、なんだかムズムズする。
そういえば吸血されるのは久しぶりだからかな。
紅の唾液か、まだ血が出ているのかはわからないけれど、首筋のぬめった液体の感触が、なんか、やだ。
「んっ、・・・は、」
漏れた吐息は途中で唇を塞がれたために呼吸がおかしくなって酸素を求めてパクパクと口を何度も開くのに、舌が侵入しているために結局まともに息など出来ない。
「なぁ、透」
「は、ぁ、どしたの?」
「・・・また、飯作ってくれよ」
「うん。食べたいの考えててね」
優しい言葉に、ついに瞳から涙が零れた。
やっぱり、どうしても、紅のことも好きで、好きで。
そのくせリカルドのことも気になってしまうこの体たらく。
完全に身動きの取れなくなった俺に、酷く優しいキスをしてくる紅。
その夜、紅に抱かれた。