リカルドの元へ連れられてから初めて外を見た。
多くの木々に囲まれて、ひっそりと建っていたこの屋敷。
存外小さい屋敷だったことに驚いたけれど、屋敷内も殆ど出歩いたことがなかったので仕方ない。
紅に抱えられてリカルドの元から離れていく。
言い様のない苦しみが襲ってきて、心臓が痛くて堪らなかった。
やがてシアや黒羽さん、神咲家騎士団の方たちが見えた。
木々に隠れるように居た彼等が出てきて、それぞれ労りの言葉をくれる。
それなら、この心臓を握りつぶされたような痛みをどうにかして欲しいと言いたかった。
けれど、俺は自分で選択したから。
あの時リカルドの前で、紅の前で、俺は紅と共に行くと。
闘って欲しくなかった。
選べない自分にイラついた。
こうあるべきだと思った。
だから俺はここに居る。
俺の言葉にそうかと呟いたリカルドは部屋を出て行った。
扉を開けたまま。
紅は屋敷の人達を挑発するように俺を抱えて廊下のど真ん中をゆっくりと歩いていく。
使用人の人達や、クレメンスさんはただ黙って俺たちを見つめていただけで何もしてこなかった。
ただ、クレメンスさんの瞳にはなんらかの感情が浮かんでいたのだが、俺には正確に読み取ることができなかった。
あの瞳は何を伝えようとしてたんだろう。
心配か、憐れみか、紅を選んだことへの憤りか。
全てが違うと思うし、だけどその感情も持っていたとも思う。
わからないまま、これでいいと紅にしがみついてこの屋敷から出るのを眺めていただけだった。
そうしてリカルドは何もせずにあっさりとこの屋敷から出してくれた。
紅は不審に思ってるけど、多分何もしないと思う。
だって、選べと言ってくれたのはリカルドで、俺は選んだから。
寝てた為に着ていたものは薄いパジャマだったので冷たい空気が刺すような痛みを皮膚に与えてくる。
すぐに車の中に入れて貰って毛布に包まれればやっと一息つけた。
確かに暖かいと思うけど、心の奥底は冷えきっていて。
薄ら寒いこの感覚が嫌で体育座りして膝に顔を押し付けた。
その後は多分、寝ちゃったんだと思う。
気がついたら紅の屋敷で、紅の部屋のベッドで寝ていた。
時計を見ると夜9時。
この部屋は静かで、窓から見える夜空に半月が浮かび上がっていた。
綺麗だなぁと思って眺める。
そう言えば身体の怠さや寒気など無くなった。
これなら大丈夫だと起き上がり、カーディガンをひっかけて部屋から出た。
コレは寮から持ってきたものなので着るだけで安心した。
何処に紅達は居るのかな、そう思いながら廊下を歩く。
明かりはあるけども誰もいない廊下は気味の悪いもので、自然と小走りになる。
それからとりあえず食堂の方へ向かうと、紅達は既に食べ終えて談話室の方へ行ったそうだ。
何か話してるのかなと気になったけどその前にずっと寝てたからお腹が空いた。
胃に優しいものを作ってもらって、それを平らげると気になったので談話室に向かった。
扉の前には警備の人達が居て、お願いするとあっさりと開けてもらえた。