胸の中の不信感。
吐き出してしまいたいのにモヤモヤと燻るそれは身体の中を侵略していた。
眠れたには眠れたけれど、あまり寝た気がしない。
空調が効いている筈なのに背筋がゾクゾクして、なんだか血液が冷えてしまったみたいだ。
小さくこぼしたくしゃみは俺以外に聞かれることはなかったし、大丈夫だと深呼吸をする。
熱いお湯で顔を洗って気合を入れて、もう一度鏡の向こうの自分に大丈夫だと言った。
その後、朝食を持ってきてくれた人には顔をじろじろ見られたけれど気にしないふり。
それでも毎朝全て平らげていたのだが、今日はやはり残してしまった。
使用人が去っていった後、もう一眠りすればたぶん元気になるとベッドに潜り込む。
空調も効いて、ベッドはふかふかで、なのに消えないこの寒気。
たぶん昨日の本が原因だ。
クレメンスさんは一説だと言ってたし、嘘だと、信じたい。
例えアレが誰にでも取り扱えるものだとしても、紅が王だと。
たった一つの確かな真実でさえ信じられない状況は辛くてたまらない。
眠ってしまえばいい、逃げだとしても。
そんな時に限って眠らせてくれなくて。
何時まで経っても眠気は来ないし、だけど平衡感覚を失ったように気分が悪い。
やがて眠れないことにイライラしてきて更に眠れなくなる負の連鎖が起きてしまってる。
更に気分は悪くなってきたし、どうすればいいんだとやはりイライラする。
虫の居所が悪いのか兎に角なんでもかんでもイラつきの原因となってしまうのだ。
あまりにもイラつく所為か無意識に舌打ちしてしまった時に、扉の開く音がした。
「おい、体調はどうだ」
「・・・リカルド」
入ってくるとベッドに近づきながら話しかけてきた。
その声が頭に響き、思わず睨むようにそちらを見てしまうと、無表情ながらも謝ってきた。
それから仕切り直しとでもいうように再度体調のことを聞かれたので素直に気分が悪い事を告げた。
「わかった。少し待ってろ」
「・・・はい」
言葉と共に撫でられた頭がクラクラする。
だけど少し安心したのは、熱のせいだろうか。
やがてリカルドと共にやって来たクリウスと使用人。
まずは体温計で熱を測り、おでこには冷たいタオルを乗せられ更に毛布を被せて貰う。
それからベッドサイドのテーブルには飲む用の水と額を冷やすタオル用の水が置かれた。
「38度7分ですか・・・お医者様に来て貰いましょう」
「そうだな。透、寒くないか?」
「だいじょうぶ」
「脱水症はになるといけないので定期的にお水を飲んで下さいね」
「わかりました」
そう言うとクリウスと使用人は退室して行った。
まだリカルドが居ることを少しだけ嬉しく思って、でもすぐ出て行ってしまうかもと寂しく思う。
「安静にな。眠ったほうがいい。ここに居るから」
「・・・うん」
早々に熱で冷たかったタオルがすぐに温かくなってしまい、それを冷水に入っていたもう一つのタオルと取り替えてくれた。
ここに居てくれる、その言葉がもたらす安心感で、いつの間にかやってきた睡魔が眠りへと誘ってくる。
それに素直に従い、視界の隅っこにいるリカルドを最後に見てから目を閉じた。