Magician's Wish

「トリックオアトリート!」

「・・・どうしたんですか?確かに今日はハロウィンですけど」

「もう、時雨君!お菓子?悪戯?どっちがいいの?」

「じゃあこれ上げます」

「ありがとう!」

HRのあと、突然現れた藤堂先輩にいきなりのハロウィンの合言葉を言われる。
一瞬この人頭大丈夫かと思ってしまったけど、まあ可愛いからいい。
それに女性はイベントが好きらしいし、クラスでも女子同士でお菓子の交換みたいなのをしていたことを思い出す。

飴を上げれば花が綻ぶ様に笑う藤堂先輩に笑い返し、そのまま帰路につく。

「しーぐーれー!トリックオアトリート」

「先輩もですか・・・はい、どうぞ」

「どーも。はい、時雨にもあげるー」

「ありがとうございます」

合言葉も糞もないけれど、とりあえず甘そうなクッキーを貰った。
綺麗にラッピングされているそれは、手作り感が溢れていて、もしかしたら透子さんが作ったのかもしれないと期待。
透子さんは料理も美味いけどお菓子作りも凄いんだ。

「これ、透子さんが作ったんですか?」

「いやー?さっき女子に貰った」

「・・・先輩、返します」

帰り際、クラスでお菓子を配ってた子にトリックオアトリートってふざけて言ったらくれたんだと、笑いながら言う先輩。
このモヤモヤした感情は、嫉妬?
そんなの、嫉妬に決まっているじゃないか。

「えー、いらないの?」

「悪いじゃないですか」

「別にバレンタインじゃないしー」

こんなに綺麗にラッピングされて、そうゆう意味合いを持たないわけがないのだ。
そりゃ、これで告白の意味合いも持つとは思わないが、女子として意識して貰いたいとは確実に思っているだろう。

「もー、時雨ったら可愛いんだからー」

「なにがですか、目は大丈夫ですか?」

「でたー、ツンデレ」

「うっさいです」

可愛いとか、あまり嬉しい言葉ではない。
だけど、先輩から好意的な意味合いを持つ言葉を言われて喜ばない訳も無いのだ。
自分でも簡単な人間だなぁとは思うけど、単純でいいのだ。

「これくれた子は、彼氏いるよ?」

「だ、から!気にしてませんって!」

「そーお?ならいいけど」

ほっとして、思わずわかりやすく肩の力を抜いてしまったのが少々恥ずかしいけど家まであと少しとなっている。
さっさと帰って明日になったら忘れよう。
それにしても、随分とくだらないことで長々と話していたなぁと思う。

「じゃあ、これで失礼します」

「今日は家入っちゃダメ?」

「別にいいですけど」

「んー、お邪魔しようかな」

ならどうぞ、と扉を開けて先輩を中に入れる。

「時雨」

「はい?・・・っ!?」

「ね、今日家に誰も居ない?」

「・・・居ません」

後ろから抱きしめられて、耳元で囁かれる。
静かに頷き答えると、より一層強く身体を包み込まれた。

Magician's Wish
(君を独り占めする権利が欲しいんだ)



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