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再び目覚めた頃には、人々の活気が高まっているのだろうか、街から様々な歓声が聞こえた。
こうした素晴らしい国が成り立っているのは、彼がこの国を治めているから。

目の前で安らかに眠る横顔を眺め、悪戯に髪を撫で回す。
サラサラしてるくせに柔らかくて気持ちがいい。

ああ、初めて会った時もこの髪を心底美しいと思った。
もう何年前の話だろうか?

別の任務でこの国にも、自国でもない場所だった。
一般人の格好をして、酒場で情報集めに勤しんでいた。
その時に彼が現れたのだった。

旅人の格好をして、ここらの人ではないが逆に様々なことを知っているのではないかと思い近づいたのだ。
俺の思惑通りに彼は俺が欲していた情報を持っており、更なる情報をと金と交換に取り引きを持ちかけた。
今思えば彼はこの豊かな国の王なのだから、金など有り余っているだろうに、馬鹿なことをしたもんだ。

俺との取り引きに彼は対価を金以外で求めた。
俺はそれに、頷いた。

それが初めて彼とまぐわった日であった。
男色の人間かと、自分は見目麗しい者ではないので最初そう思っていた。
しかし、あろうことか彼は異性愛者であった。
ただ、俺が特別だと。

彼は一度だけではと一回の情事では多くの情報を与えてくれなかった。
だから何度も、何度も身体を重ねていた。
その中で彼は俺に何度も愛の言葉を投げかけてくれて。

彼の想いに陥落したのは結構すぐだったと思う。
だけど、それとこれは別だと理性のままに、全ての情報を引き出せば彼の前から立ち去った。

それで終わらなかったのは、一年と少し前に俺がこの牢獄に閉じ込められたからだ。
新しく与えられた任務は、この国と南国にあるまた別の国の密談を探る事。
その時に彼が王だと知り、心底驚いた。

俺が閉じ込められて、少しした頃。
そう、ちょうど一年前。
石壁が突然動き、そこに扉があった。
それからはほぼ今日と一緒で身体を重ね、睦み合った。

俺は脱出する術を探していた。
この隠し道は役に立つ。
何故なら王の部屋以外の場所にも繋がっているから。
逃げられる。
彼からの逃げろというメッセージだともわかった。

だけどもう一度だけ。
それに縋り付いて今日この日を迎えた。

ああ、なんて、愛しい。

「・・・んぅ」

「起き、た?」

「あぁ・・・おはよう」

「おはよう」

身じろぎした彼はゆっくりと目を開く。
窓からは後光がさすようで、彼の美しさをより一層引き立てる。
眩いほどの美に、頭がクラクラする。

「お腹が空いたか?」

「うん」

「少し待ってろ」

俺はベッドの中のまま。
王に何をさせてるんだって感じだけど、今日は違う。
誰のものでもない、ただの人だから。

水で喉を潤し、瑞々しい果実を食べる。
酸味と甘味がちょうどよく、とても美味しかった。
牢獄にいる、本来は俺と一緒の罪人達は今日一日腹を空かせているというのに、贅沢なものだ。

「ねぇ、俺のとこだけ?あの隠し扉がらあるの」

「この城には多くの隠し通路がある。牢獄は後に作った場所だから、その存在は知られていなくて、たまたまあそこにあったのだろう」

「へー、運良かったな俺」

「運なわけ、ないだろ」

「・・・そっか」

きちんと食事を取ってから、また身体を重ね合わせる。
性行為は勿論快楽を得るというのもあるけれど、彼の熱を感じ、その胸の鼓動を聞き、身体の隅々まで見せ合って、互いの愛を確かめるのだ。

何度唇を重ねても、何度身体の奥に彼の熱を受け入れても、交わらないものはあるけれど。
それでも、交われるものは全てしておきたい。

そんな風に一日をベッドの上で使い、空は橙に染まってきていた。
俺の隠密生活はあまり楽しいことなどないけれど、それでも自国の話などをした。
彼もまた、この素晴らしい国について語ってくれた。
愛の言葉を、何度も何度も口にした。

そして空は漆黒を纏い、僅かな星々しか明かりはない。
と言っても街はまだまだ活気で溢れているので人工的な灯は沢山あるけれど。

不意に彼は言う。

「隠し部屋がある。君一人囲うことなど難しくない」

「流石王様だね」

「鎖で繋いで、閉じ込めて、側にいてくれないか」

「・・・いいよ」

そう返事をすれば彼は笑う。
揺れる胸に顔を埋め、次の言葉を待つ。

「エイプリルフールの、嘘だよ」

「知ってた」

本来この日は嘘をついて良い日。
そんな日の、戯言。

彼の胸を俺の涙で濡らし、彼の涙が俺の髪を濡らした。


そして、0時ちょうどにこの国に別れを告げた。

三秒黙ってキスをしよう
(黙れないなら好きだと言って)



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