蜘蛛

たぶん自分は、ある種の完璧主義なのだと思う。
手に入れるならば心の隙間一ミリもないほどに自分で埋め尽くしたいし、体は俺にだけ反応するようにしたいと思う。

相手の意思をあくまでも尊重するし、多少強引だろうが無理やりになどしない。
自分から嵌った罠なのだから、逃げ出そうともしないだろうから。

携帯で時間を確認すると、約束の時間に着くにはそろそろ出なければいけない。
借りた本を鞄に詰めて急いで向かえばすぐに家が見えてくるので呼び鈴を押して時雨が出てくるのを待つ。いや、今日はお義母さんが居るのかもしれない。

お義母さんや時雨の従兄弟の香苗さんはどうやら応援してくれてるみたいだし、外堀から埋めるにはあとお義父さんだけかと思えばそっちにも気に入られたので時雨の逃げ道はない。
案外簡単にいったので少しひょうし抜けしたがその分時雨の方に罠をはれたので本当に助かったことを覚えている。

「あ、先輩。こんにちは」

「やっほー、時雨ー」

中へ案内され、空調の整備された室内はやはり心地よく、そのまま前を歩く時雨にでも抱き付こうかと思ったが今は我慢する時だ。

「お義母さんは?」

「休日出勤。ちなみに父さんは同窓会に行ってます」

「じゃーついでに香苗さんはー?」

「香苗さんは知り合いの結婚式らしいです」

二人きりなら何をしてもいい。
だなんて考えが浮かぶが、あまり怖がらせるのも良くない。

まだバスケ部で主将してた頃、意識してたのか所々おかしかった。
その上少し乱暴だったとは思うが俺が告白まで持っていかせたのだ。
告白する相手は俺なので、持っていかせたとは少し変な言い方かもしれないけど、俺から言わせてみれば計画通り。

「前借りてた本持ってきたー、なんかまたお勧めのあるー?」

「そうですねー・・・そう言えばあの作家新シリーズ始めたらしいですよ」

えーと、あの人の名前は、と必死に思い出そうとしてる時雨を観察する。
告白を受けてから数日は挙動不審であったり恥ずかしそうにしていたが、最近はそれがなくなって少し寂しいがこの状況を当たり前のものとして捉え始めてる証拠でもある。

時雨の部屋に入るととりあえず足の間に時雨を挟む。
これはまだ慣れてないみたいだから初心な態度が少し面白いし可愛い。

こうやって少しずつ俺の存在を反射として覚えさせていくのが楽しいのだ。
今、時雨の頭の中には俺に対する感情で―――例えば恥ずかしいとか安心だとか、そんなもので埋まっているのだろうと思うと笑ってしまいそうになる。

「先輩っ!あの、飲み物持ってきますから。麦茶とポカリありますけど」

「じゃあ麦茶ねー。あと母さんが持ってけってさ、ケーキ」

「へ・・・?って、コレっ!!ありがとうございます!!」

結構有名店だからロゴを見た瞬間にどこのかわかったらしく笑顔を見せる。
それに笑い返しながらも、もう少し我慢できねーかなーと考えてしまうのは、欲だ。
俺の存在に慣らしたい、だけどまだ緊張して、こうやって抜け出す隙を見出してはどこかへ行こうとしてしまうのだ。

俺は絶対に拘束なんてしない。
時雨の方から来るように誘き寄せるだけで、それまでは他には何もしない。

「先輩、どれ食べますか?」

「時雨から選んでいいよー」

「じゃあ、モンブラン頂ますね。透子さんにお礼伝えてください」

「わかったーじゃあ俺はこのチョコレートのにするわー」

「はい」

まだ先輩、母さんは透子さん。
気に入らない気に入らない、だけどそんな事は今考えても仕様がない。

「時雨ー」

「なんですかー?」

引き寄せて、キス。
抵抗する術はとっくの昔に奪ったからもう大丈夫。
恋人同士のスキンシップだと、最初の頃本当にしつこいぐらいしたから。

こうやって俺が時雨にとって酸素となれる時を狙い、今も罠をはっている。
気づいていないし気づかせない、ゆっくりと自分から歩み寄らせるから。

END


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