猛毒

透の血は、毒だと思う。
その場に一滴零れ落ちるだけで周囲の者全てを狂わせる。
赤くて芳醇なその色香に惹かれたのは俺も同じだが、透は俺のものだ。

その事実が堪らなく興奮をもたらし、深みへとはまっていくのだ。


「おーい、紅?夕飯何にするか聞いてるんですけどー?」

「お前」

「わかった、肉な」

「血が欲しい」

「・・・はいはい」

今日はもともと胸元が大きく空いている服だったので常にその美味そうな匂いが撒き散らされており、理性を保つのがどれだけ大変なことだったか。
平気そうな顔をしているが、実は理事長ぐらいの力の持ち主でも部屋を出た瞬間重い溜息を吐き出していることに気付いてはいないのだろうが。

確かに俺は宝具にも認められた、きちんとした力を持つ王なのだろう。
それでも透の香りは何時だって俺を惑わし、惹きつけて放してなどはくれないのだ。

正直やめて欲しいのだが、宝具は拘束具のようで嫌だと俺が居るときは指輪とネックレスしかしていないので、その分甘い香りが強く漂ってくる。
その上料理をする時など、指輪さえも外してしまうのだ。
理性の限界など試したくもないし、もし万が一のことがあったらそれこそ俺は狂う。

「・・・今日はぼーっとしてるね。吸わないの?」

吸わない筈がない。
こんな近くに極上の獲物が食べてくださいとその素肌を晒していると言うのだから。

答えるように齧り付くと牙が刺さる痛みに眉を寄せる透。
その表情は何回見ても艶めかしくて、何度このままベッドへ運び込もうとしたことやら。
口内に入ってくる透の血液により、体中に力が満ち足りるような気分だ。
いや、そうなのだろう。
きっと血を吸った後ならばカインでも一撃で倒せるような気がする。

「っん、いたっ、いってば!」

「あー・・・悪かったな、大丈夫か?」

考え事をしていたせいか、血が出なくなった傷口を抉る様に舌でなめていたらしい。
これが無意識の行動なのだから、本当にこの血は恐ろしいものだ。

「もういいだろ、結局肉か?魚か?」

「肉」

もう一回お前、だなんて馬鹿なこと言いそうで慌てて違うことを考えて気をそらす。
料理が出来るまで読みかけの本を読んでいようと、先程透が酒と共に持ってきた肴をつまみながら本を持つ。
こんなことぐらいで気が逸らせるわけもないのだが、まあ努力しよう。


「紅、皿運ぶの手伝ってー」

キッチンからの声に本を置き、思ったより本の方に集中できたなと思いながら向かう。
近づけば透の体臭には遠く及ばないもの、美味そうな料理が並んでいる。
吸血種も血だけでは生きていけないので透が料理上手なのは本当に助かった。

今日はシチューで、副菜も全部美味かったのですぐに平らげると風呂に入る。
ダサいので言いはしないが、この風呂の時間は透の匂いがしないので唯一安らげる時間と言ってもいいのである。
それに風呂に入った後の透の体臭は少しは消えているので夜寝る時には普通に我慢できる程度になるのが本当に安心したところである。
そりゃあ普段から我慢すれば大丈夫なのだが、辛いものは辛いのだ。

「透、風呂あがった。お前も早く入れよ」

「うんー。ってあーもう、ちゃんと髪拭けよ!」

「わかってる」

投げつけてきたタオルを受け取り、水を飲みながら適当にテレビを見る。
大して面白くもないのでぼーっとしながら透が風呂からあがるのをまつ。

暫くして、風呂場から水音以外の音が聞こえてきたのでもうあがって何か片付けでもしているのだろう。

「紅ー、もう寝る?」

「お前は・・・眠そうだな」

「くっそねみぃ・・・」

俺には髪拭けと言ってきたくせに濡れた髪が肌に張り付き、襟足の先から滴る水が色っぽくて本当に目のやり場に困るのだが、どうしてやろうか。

よたよたとこちらに寄ってきた透の体を抱きしめ、ベッドへ運ぶと抱きしめる。
今日も一日よく耐えたなと自分を心の中で褒めながら、最早目が細すぎて見えないぐらいとなっている透に口付ける。
眠い時、透は強請る様に唇を寄せてくるからそのまま朝方までいろいろしたことは両手で数えられないぐらいには、ある。
不満を言いながらも嬌声をあげ、色香を振りまくその体を強く抱きしめるのだ。

「こ、う?どした?」

「いや、お休み」

「おやすみー」

もう一度唇、額に口付けると胸に抱き込み、自分も目を閉じたのであった。

END


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