3 2時ぐらいから居たというのにいつのまにか6時ぐらいになっていた。 何人かがもう食べれないとギブアップしていくのに対し、他の人が食べ続ける。 そして他の人がギブアップすると何人かが復活して食べると言うのを繰り返していたのである。 「…先輩、そろそろ帰りましょうよ」 「そだな」 声を掛けるとすぐに反応してくれて残りを大きな一口で食べた。 「じゃー、俺ら帰るから。金は明日払うから」 近くにいた副部長さんに声をかけると荷物を取って俺の手をひっぱていく。 店を出ていくまでは早めな足取りだったのだが、すぐに俺の歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれる。 「いいんですか?」 ある程度店から遠くなってから声をかける。 「いーんだよ。なんか、時雨と一緒に居たいからねぇ」 勿論二人きりでね、といつもの三割増しで言われて喉から出かかっていた文句の言葉が消えていく。 甘い先輩の声は嫌いだ。今の甘すぎる先輩の声はもっと嫌いだ。 自惚れる自分が嫌いだ。 「何処まで行くんですか?」 「何処までも行きたいなぁ、時雨と一緒なら」 「…仕方ないんで、ずっとついて行きますよ」 案外すんなりと正直な、素直な気持ちが言葉となって出てきたことに自分でびっくりした。 何処に行こうとか決めてないから、只ひたすらまっすぐ歩く。 すると小さな公園が見えてくるからいったんそこで休憩しようという事になった。 「はぁ…疲れた」 「時雨とブランコって…なんかかわいー」 「煩いです」 そう言う先輩もブランコに乗っているくせに何を言っているんだ。 「…寒いなぁ」 「そうですね」 「今年は雪降らないなー」 「もっと寒くなるから別にいいですよ」 「でもさー綺麗じゃん」 「確かにそうですけど」 只でさえもう凍死するんじゃないかと思うぐらいの寒さなのにこれで雪が降ったらと思うとぞっとする。 先輩は寒いのは割と平気そうなので本当にうらやましい。 というか、その服の下に隠れている筋肉がきっと防寒しているんじゃないかと馬鹿なことを考える。 「時雨」 「なんですか?」 「宇月蒼の小説の内容な、考えたんだよ」 「それが、どうしたんですか?」 いきなり出てきた自分のもう一つの名前に吃驚するけれど平常心を忘れずに返事する。 「いつも通りが一番だって、今すげー実感してるんだよなぁ」 「そんな、内容でしたね」 ファミレスで俺も読まされたけれど自分の文章だから誤字脱字は無かったかの確認となっただけだった。 まぁ、担当から何も言われてないから大丈夫なのは分かっていたけど。 「時雨が傍に居るのが、一番だな」 「ありがとうございます」 そのままだんまり。 それでも何故か温かい。 暫くして先輩が腰を上げる。 それをボーっと見ていると伸ばされる腕。 「先輩」 「帰ろうか」 「・・・・はい」 冷えた指先を先輩の掌にそっとのせる。 力強い腕に引き寄せられて立ち上がる。 「行こう」 強い力で握られる掌を少し痛いとは思うけれども、その痛みが暖かい思いに変わっていくようで不思議で堪らない。 今触れているその先輩の熱が異様なほど心地よく感じられて、もっとと言うように握り返したのであった。 クリスマスとは綺麗なものだけれど 不思議な人の想いと言う魔法がかかってしまう日だから 僕は怖くて堪らないんだ その魔法が白い雪で君を隠してしまいそうで クリスマスなんてどうでもいいから傍に居て 外で賑わうのは知らんぷりしてしまおうよ 手を繋いで君の熱を感じていたいんだ それだけで僕は世界で一番の幸せ者だよ 素直になれない僕を君は面倒臭いと思うかもしれない それでも君の事を嫌いだと言う僕 君の事は嫌いじゃないよ 大好きじゃない それでも僕の傍に居ないと嫌なんだ 君が僕の隣に居るのがいつも通りだから それがきっと僕らの一番の幸せだと気付いてほしいんだ ――親愛なる大嫌いな貴方に送る―― ――貴方の事が嫌いじゃない私より―― Fin しおり |