2 適当に用意してすぐに家を出る。 相変わらず家には誰もいない。 数分歩いて電車に乗って数分歩く。 するともう通いなれた大きな建物が見えてくる。 体育館へと足を進めると聞きなれた先輩の声が聞こえてくる。 「…こんにちわ」 「時雨ー!お前…って本当に顔色悪いな」 大丈夫かーと頭をゆすぶられるのが気持ち悪くなる原因だとはさすがに言えない。 それまで副部長さんと話していたのに俺が見えたらすぐに来てくれたのはちょっと嬉しかったけれどもさ。 「そうなんですよ…」 「あー。熱は?」 「大丈夫ですよ、只の寝不足で」 「お前なぁ、何してたんだよ」 「いろいろあるんですよ」 先輩が楽しみにしているクリスマス小説の企画のせいでね。 心の中で悪態をつくけれども、まったく言葉に出しては言えないのが歯がゆいものだ。 「まぁいいけど、午後からファミレスでも入って騒ごうぜって話なんだけど」 「…遊びの為に呼び出されたわけですか」 「いやいや時雨くん、そんなこと言わないで―」 さっきまでの、ちょっと真剣な声がいつもの砕けた感じになって一安心。 部活にはけっこう真面目に取り組んでいる先輩なのでマジで怒らせたかもしれないという杞憂があったから。 まぁとにかく大丈夫だったのでよかった。 「とりあえずそこ、座っとけ」 先輩が指差した場所へ腰を下ろすと藤堂先輩が隣に座ってきた。 あいかわらず先輩可愛いと思いながらどうしたんですかと聞く。 「やっぱり顔色悪いけど大丈夫?」 「大丈夫ですよ」 「ならいいけど…今日、時雨君が来なくて部長拗ねてたのよ?」 悪戯を仕掛けているような笑顔で言う先輩。 正直、その言葉を信じられないのが俺の心中だ。 だって先輩は部活の時は多少は締まった顔になるけれど基本ゆるゆるだ。 初めてその部活中の真剣な顔を見たときは本当にびびってこの人一体どうしたんだろうと思ったぐらいだ。 最近はようやくその真剣な顔にも多少離れてきたとはいえ時々ドキッとしてしま――って俺は何を言っているんだ。 「想像出来ないです」 「ほんと、あれはレアだったわ」 見てみたいなーと思いながらボールを持つ先輩の姿を追いかける。 なんかジャンプしてボールとるときに腹チラするというかなんというか、素晴らしい腹筋が見えて所々で歓声が上がる。 あれ、なんか観客がいる気がするんだけれど一体どういう事だ。 「あ、あれほとんど部長のファンだから気にしないで」 「はぁ…」 「嫉妬したー?」 「しません」 嫉妬なんてするわけがない。 だって、先輩が俺の事どんだけ気に入ってるか知っているし。 藤堂先輩と雑談をしていると何時の間にか練習は終わって片づけを始めている。 手伝おうと思ったが止められたので大人しく座っていることにした。 五十嵐先輩は何時の間にか着替え終わって携帯で何かを見ている。 あぁ、もう1時を過ぎたので小説が載せてあるんだろう。 その後、移動するときも隣にいた先輩は小説を読んでいた。 ファミレスに入り、席に着くとようやく画面から視線を離してメニューに目を通していた。 「何、見てたんですか?」 「宇月蒼の、クリスマス小説」 「そうですか」 知っていることなのに、わざわざ聞く俺は意地が悪いのであろうか。 まぁ、作者として感想は聞きたいところであるから。 そんな心の中で言い訳しながらも何食わぬ顔でどんな内容だったんですかと聞く。 「簡単に言うと相手と傍に居れるならクリスマスなんてどうでもいいって感じー」 「へぇ」 「この人、あんまり恋愛系の書かないのにどうしたのかなー?」 「知りませんよ、それを考えるのが読者の役目なんじゃないですか?」 「まぁ、そーだけどさー」 答えなら、俺が持っているけれどそれは内緒。 それは俺が宇月蒼ってのを隠していることもあるし先輩に見つけて欲しい答えだから。 食べ物が運ばれてくると部活で疲れている皆はすぐにがっついて。 違うテーブルに居る藤堂先輩は女の子らしくパフェを食べている。でも、普通食後じゃないのか?と思いながらもプリンを食べる。 隣の先輩も丁寧な、綺麗な食べ方なのだが一口が意外と大きくてすぐに胃の中へと消えていく料理の数々。 そして、俺は藤堂先輩の食べているパフェを頼むのであった。 しおり |