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いつも通り、それがいい(泡沫夢幻)



今は冬休み。
そうは言っても部活はあるもんで。
眠い体をなんとか起こして(起こされてともいう)行きたくもない学校へ行く。

昨日は最悪だった。
なんか知らないけれどHPにクリスマスの短編小説を載せるから書いてと言われた。
ちなみに今日は12月23日。明日がクリスマスであるからつまり、二日間で書けと言われたのだ。
本当は明日書こう、そうだ俺には明日があるんだとか思っていたんだけど次の日部活だという事で泣く泣くパソコンを起動させた。


クリスマスだなんて、日本では恋人たちの日であるか恋人がいない奴らは集まって騒ぐ日のことだろう。
俺は母さんがどっかの高い洋菓子店でクリスマスケーキを買ってくれるからそれを食べる日だということしか思っていない。
日中はクラスで集まったこともあったような気がする。


溜息をつきながらも必死でクリスマスについて調べたあの夜。
気が付けば深い夜の世界に入り込んでしまったらしくて辺りは真っ暗だった。

同じ体勢だったために首を横に倒すとポキッと音がする。
手も伸ばしてみればポキポキと煩い。ポッキーが食いたくなったじゃないか。

明日?いや時刻的には今日の部活は午後からなので嬉しいものだ。
そしてベッドへ入り込み眠りにつく。


昼ごろに目を覚まし、リビングへと向かうと簡単な食事とメモがあった。
メモを読むと弁当作れなくてゴメンという言葉。
冬休み中は母さんが弁当を作ってくれていたのだ。
まぁ、どうせ今日は午後からなので関係ないのだが。

「仕事だから、仕方ない」

家に母親が居ないのは自我が確立した後の事だから寂しいと思うことはない。
それでも幼いころにこれでもかと言う程の愛をささげてくれたから、それを懐かしむ思いが胸中にあるだけだ。

食事を済ませ、着替えて、荷物を準備するとインターホンの音が鳴り響く。
今日も来たのかとスポーツバッグを肩にかけて玄関へと向かう。


「こんにちわ」

「よー」

扉を開くといつも通りの先輩の顔。
昼の挨拶を済ませて鍵を閉めてから先輩の隣に立つ。

冬の寒々しい風が吹いてきて思わず身を竦める。
日本の四季は確かに美しいものでもあるので良いとは思うが冬は本当に嫌だ。
でも汗をかくのも嫌だというが、やはり冬の寒さの方が嫌だ。

「大丈夫ー?」

「大丈夫なわけないですよ。てか冬休みに部活とかまじないです」

「おいおい、それはいろんな人を敵に回したぜー」

「でも寒いんですよ」

だなんて会話を繰り返していると駅につき電車に乗り込む。
電車の中は暖房が利いているし人も結構いるからいい感じで体が温まる。

それも降りてしまえばそれまでで、学校までの数分間が苦痛すぎて死ぬかと思った。


「よー、みんな早いなぁ」

「こんにちわ」

先に体育館に着いていた先輩やらに挨拶をしてボールを出したりその他諸々準備をして挨拶。
準備運動してシュート練習して3on3やらを繰り返す。
冷えていた体は運動によって暖められたがむしろ熱くなり過ぎた。

あたりが暗くなる。
そんな頃合いに先輩から声がかかってやっと終わりが見えた。

「汗ちゃんとふいとけよー」

そんな声が副部長からとんできてやっぱりこの人優しいなーとか思った。
いろんな意味で個性的な人たちが多いからちょっと疲れるというかなんというか。


片づけを終えて汗を拭いて着替えると、ドアによりかかって携帯を弄っている先輩。

「先輩、何見てるんですか?」

「んー、新刊の発売日」

「そうなんですか」

「明日クリスマスの特別小説が午後1時から掲載されるって」

ってことはあそこの文庫か…
先日声を聴いたばかりのあの編集者の顔を思い出すけれど、仕事に脳味噌を持っていかれそうでやめた。

「へー」

「お前本好きじゃないの―?」

「先輩が本好きの方が意外ですよ」

「見た目で?」

「見た目で、です」

「偏見だー、酷いなー」

歩き出す。
先輩の話で思い出すがまだ物語の3分の1しか書いていない。
あぁ、明日はアンハッピーメリークリスマスになる予感しかしないな…


そして迎えた当日クリスマス。
というか昨日からずっと小説を書いていたのでいつ今日になってしまったのかもう区別がつかない。
何がハッピーだ。小説を書く途中で逆切れしそうになるほどギリギリだった。
朝早く――3時40分だった――にメールで送ったら向こうはいかにも寝てました的な声でおはよう、良く頑張ったねと声がかかってきた。
あぁ、本当にがんばったよ、頑張りすぎたよ。

やつれた顔でのそのそとベッドへ入る。
あぁ、次に目が覚めたらあの世かも知れない。
だなんて冗談半分、でも軽く本気で思いながらベッドへ入る。
そしたら睡魔は本当に簡単に襲ってくるわけで、どうして今まで襲われなかったんだと思う程早く眠りの世界に入っていった。


             ********


煩い。
耳元で鳴り響く着信音にイラッとしつつも表示された文字に目を向ける。
正直言って無視しようかと思ったが一応でも、仮にでも先輩なので溜息をつきながらボタンを押す。

『時雨ー!お前今日は部活だぜー、クリスマスだからって浮かれるんじゃねぇぞー』

「浮かれてるわけないじゃないですか」

今の部活のお知らせとクリスマスの単語にもう頭は火山が噴火する一歩手前の状態だ。

『部活こいやー』

「体調不良で無理っぽいです」

『無理でも来い』

「無茶言わないでください」

『時雨に会いたいから、来い』

おいおいおい、此処でいきなり口説き文句ですかそうですか。やめて下さい。
先輩の甘い声は苦手だから、嫌いだ。

「気持ち悪いです、やめて下さい。…もう12時ですよ」

『一時間でも、三十分でもいいから来い』

「じゃあ今日は見学で」

『それでもいーから来い』

「…わかりました」

何処までも粘る先輩に、折れてしまう俺。
どちらにせよ午前中は部活だって忘れていた俺も俺だけれどもさ。



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